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【松岡久蔵】WTO判決「必死の韓国」に敗北した、日本の絶望的な外交力 外務省は「絶対勝てる」と言っていた

福島第一原発事故後、韓国政府が日本の水産物に対して禁輸措置をとっていることを不当だとして日本政府が世界貿易機関(WTO)に提訴した問題で、WTOの最終審に当たる上級委員会は今月11日、一審での韓国への是正勧告を取り消した。これにより、日本は事実上敗訴した。

「通常、一審の判断が覆ることはありえない」(自民議員)だけに、日本政府にとっては青天の霹靂。事故後8年が経過しても続くアジア諸国などの禁輸措置を解除し、被災地の水産物の輸出を拡大する構想は頓挫した。

背景には日韓ワールドカップ共催や、捕鯨問題とも共通する日本外交の「押しの弱さ」がある。

「キツネにつままれたような…」

韓国は2011年3月の原発事故発生以降、福島など8県の水産物を一部禁輸し、さらに事故から2年半後の13年9月、禁輸対象を8県の全ての水産物に拡大して放射性物質検査を強化した。

対する日本は、科学的な安全性と、事故後に時間が経過した後で禁輸措置を強化するのは不当だとして、15年5月にWTOに提訴した。

WTOは紛争処理小委員会を設置し、18年2月、韓国の禁輸措置に対して「恣意的または不当な差別」「必要以上に貿易制限的」と判断し、韓国に是正を勧告した。しかし韓国はこの判断を不服とし、最終審の上級委員会に上訴。その結果、日本が敗訴したというのが今回の経緯となる。

上級委員会の判決文に当たる報告書によると、一審は禁輸が「不当な差別」に当たるかを判断する時、食品自体の放射線量のみを判断基準としたが、将来的に汚染に影響する可能性のある日本周辺の海洋環境などの地理的条件を考慮していなかった。この点で落ち度があるため、一審が下した「韓国の禁輸措置は不当」とする判断は誤りである、との指摘が記されている。

なお、日本食品に含まれる放射線量の水準などの分析は今回の訴訟の対象ではなく、見解を示さない旨も書かれている。

今回の結果について、自民党の水産族議員は「要するに、一審の判断基準が不十分だったので、(判断を)取り消しますということ。その根拠として、実際に韓国に輸出される食品それ自体の安全性に言及するのではなく、外部環境の話を持ち出してきた。キツネにつままれたような気分でした」と話す。

上級委員会の審理は差し戻しが不可能で、今後韓国は禁輸を是正する必要はない。日本が韓国に対して関税引き上げなどの対抗措置をとることもできなくなった。

悪しき先例ができた

今回のWTOの判断でまず困るのは、東北の被災県だ。

福島県の内堀雅雄知事は12日、「非常に残念。引き続き、科学的根拠に基づいた正確な情報発信を強化し、輸入規制解除に取り組む」とするコメントを発表した。宮城、岩手の両県知事も同日、判断結果を「残念」と発言している。

宮城県は名産のホヤの8割が韓国向けに輸出されていただけに、今年捕れた分は販路を失い大部分が焼却処分される。全国漁業協同組合連合会(全漁連)みやぎの丹野一雄会長は「ホヤがシーズンを迎える矢先のことなので、非常に落胆している。輸入再開を目指して頑張ってきたので、裏切られた思い」と失望を隠さなかった。

原発事故後、一時は世界で54もの国・地域が日本産食品に対し、禁輸や検査強化などの措置を実施したが、その後、安全性を裏付けるデータが蓄積されたことで規制撤廃の流れができた。ただ、いまだに現在でも23の国・地域が規制を設けている。

そのうち、韓国など8カ国・地域は禁輸を続けている。中国は福島など10都県の食品について輸入を認めていない。台湾は5県からの輸入を停止しており、昨年に行われた住民投票でも、禁輸の継続が支持された。

政府は韓国を「はじめの一歩」として禁輸解除に弾みをつけるはずだったが、「悪い先例を作ってしまった」(自民議員)との声もあがる。

「絶対勝てる」と言ってたのに

今回の上級委の判断は、前評判では日本が勝訴するとみられていたため、日韓両政府にとってサプライズ判決だった。

実際、判断前の8日には、菅義偉官房長官が記者会見で禁輸措置の撤廃について期待感を表明する一方、韓国の文成赫(ムン・ソンヒョク)海洋水産部長官は、就任前に行われた国会の人事聴聞会で「敗訴したとしても最長15カ月間の履行期間がある。この期間を最大限活用し、国民の安全と健康を最優先に、対策を講じる」と敗訴を前提に話している。

日本時間の12日未明に発表された上級委の判断は、予想を裏切る内容だっただけに、日本国内の報道機関を慌てさせた。全国紙記者は「水産庁加工流通課の担当者に取材しても、『普通に勝てるでしょ』という雰囲気でしたから、敗訴で予定稿を準備した社はどこもありませんでした。蜂の巣をつついたような騒ぎでしたよ」と振り返る。

判決に激怒したのが、自民党の水産族議員である。

WTOの判断公表後の17日、自民党は党本部で会合を開いたが、出席した議員からは外務省や水産庁に対する不満が噴出した。被災地・宮城県選出の小野寺五典前防衛相が「完全に外交の敗北だ」と吐き捨てるなど、怒号が飛び交う有様となったのだ。

外務省の山上信吾経済局長は「被災地の関係者の期待に応えられなかったことは遺憾で申し訳ない」と謝罪する一方、「日本産食品は韓国の安全基準を満たしている」との第一審の認定が維持されたことを強調した。

ただ、水産総合調査会長の浜田靖一元防衛相は「この戦いは、負けてはならない戦いであったはず。結果を出せずに言い訳を聞いても意味がない。責任をうやむやにする気はない」と政府に対し、説明と今後の対応の方針を出すよう要求した。

先の水産族の自民議員は内幕をこう明かす。

「今回は、外務省と水産庁から『絶対に勝てますから安心してください』と、山上局長、長谷成人水産庁長官ら両省幹部が直接説明に来ていたので、こちらも安心しきっていました。ですから、余計に期待を裏切られた感が高まっているのです。

しかも、今回は被災地が絡んでいる。外務省の山上局長は、捕鯨問題では二階俊博幹事長からプレッシャーをかけられていたものの、昨年末の国際捕鯨委員会(IWC)脱退を外務省サイドから仕切って首の皮をつなぎました。

しかし、今回の件で進退問題に発展する可能性がある。経済局は国民に身近な食料問題の交渉を仕切るところですから、こういうリスクは常につきまとう。ツイてなかったとしか言いようがありません」

「ファクトがあれば大丈夫」は甘い

IWC脱退といえば、南極海での日本の調査捕鯨が2014年に国際司法裁判所(ICJ)で敗訴している。自民党捕鯨議連幹部は、今回の敗訴と捕鯨問題との類似点をこう指摘する。

「あの時も議連サイドでは『訴えて、本当に勝てるのか』という疑問があったのに対して、当時の外務省幹部が『絶対に勝てます』といって提訴した。それで負けて帰ってきたもんだから、『何やってんだ』という話になった。

外務省の連中が『こちらは科学的データはきちんとしてますから、ご安心を』と言っていたのもあの時と同じ。『お白洲の上に出れば、ファクトに基づいた公正な判断が無条件で下される』と思ってる。ナンセンスですよ。

国際社会というのは、その『公正な判断』を下す人間をいかに抱き込むかが勝負なんですから。何も進歩していない」

どこで差がついてしまったのか

別の捕鯨議連幹部は、今回の上級委で判断を下す委員が本来7人いるべきところ、3人しかおらず十分が議論が行われたのか疑われることを指摘した上で、今回の敗訴についてこう分析する。 

「そういう条件もあったとはいえ、韓国のロビイングに負けたということでしょう。日本は完全に勝てると油断していましたから、そりゃ負けても仕方ない。

韓国は、2002年のサッカーW杯を強引に日韓共催に持ち込んで『アジア初』の栄誉を勝ち取りました。どうもその辺りから、潘基文(パン・ギムン)国連総長の輩出、米国での慰安婦像の問題など、国際的な人脈作りやロビイングを重視するようになった。ここの違いですね」

韓国の「中央日報」日本語版は4月15日付の記事で、今回のWTOでの韓国勝訴に最も貢献したと評価される、チョン・ハヌル産業通商資源部通商紛争対応課長が「一審の敗訴を覆すために昨年末、ジュネーブのホテルにウォールーム(War Room)を設置し、3週間にわたり約20人がほとんど一日中シミュレーションをしながら対応した」と話したことを報じている。

記事によると、チョン氏は米国通商専門弁護士出身で、韓国屈指のローファームに所属していたが、昨年4月に政府に特別採用された。米ニューヨーク州立大哲学・政治学科を経てイリノイ大で法学を勉強し、法学専門修士(JD)を取得。その後、ワシントンで通商専門弁護士の資格も取得したとされる。

韓国産業部はチョン氏について「専門弁護士を外部から特別採用して今回の訴訟に専門的に対応し、我々の専門的な能力は大きく伸張した」と伝えた。

経済産業省所管の独立行政法人「経済産業研究所」は、日本の敗訴を受けて川瀬剛志・上智大学教授によるレポートを17日に公開している。

川瀬教授は「今回の敗訴が経済分野でのルール外交における日本の敗北だとすれば、中長期では広く貿易・投資の国際ルール、つまり国際経済法に関するリテラシーを底上げする必要がある」と指摘。

「概して韓国の方が通商ルールに関心が高」く、「韓国の方が(加えて言えば、中国、台湾、シンガポールも)通商分野で国際的に活躍する研究者、実務家は多く、また米国のロー・スクール(特にアメリカ人が入る正規のJDコース)に進学する学生も多いように思う」との認識を示した上で、日本の大学でこの分野の教員ポストが法学部の中で削減傾向にあり、人材を育成する体制が整っていないと言及している。

国際社会の「野蛮さ」を認識しないと…

アジア経済を専門にする、国内証券アナリストは韓国のロビイング能力の高さについてこう分析する。

「一つの国内でマーケットを完結させるには、最低でも人口が1億人必要です。日本はその基準を超えていますが、韓国はそうではないので、海外に市場を求めざるをえません。東南アジアなどでの韓国企業の躍進も、背景にはこの事情があります。

文在寅政権になってからのナショナリズムの高まりと相まって、今回の勝利をてこに、今後韓国が国際社会での日本叩きを強めてくる可能性は否定できません」

平成のあいだ「アジアナンバーワン」の地位を享受してきた日本は、今回のWTOでの「敗訴」により、外交におけるロビイングの重要性に対する認識の甘さを露わにした。

先に引用した「中央日報」の記事にはこういう記述がある。

〈チョン課長は裁判対応過程で目の中に腫瘍ができ、帰国して除去手術を受けなければいけないほど精神的ストレスが激しかったという。特に食の安全に対する韓国国民の大きな関心も負担になっていたと打ち明けた〉

この「必死さ」が、韓国の勝利につながったことに疑いの余地はないだろう。

もちろん、ここまで交渉担当者を追い込むことの是非はある。しかし、「正しいことをしている側が勝てる」「エビデンスがあれば勝てる」という甘い考えは通用しない「野蛮な世界」が国際社会の基本であることを認識して、通商ルールに通暁する専門家や国際機関の人脈・事情に通じた人材の育成を進めるなど、現実を見据えた対策を急ぐべきだ。

高齢化で日本も人口減少が進み、国力の「節目」となる1億人を切る日も遠くはない。敗北を糧として、なりふり構わぬ韓国の戦略に学ぶしたたかさが日本に求められている。

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