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中国人が山ほど金使う「日本観光」の残念な実情


訪日中国人富裕層にとって日本への観光におけるいちばんの楽しみはグルメです。写真はイメージ(写真:horiphoto/PIXTA)

訪日中国人富裕層は、地方の観光地にとってインバウンド戦略の重要なターゲットである。

中国人富裕層が日本観光にますます注目するようになっているが、筆者が地方自治体や企業の方々からよく尋ねられるのは、「訪日中国人富裕層を取り込みたいが、方法がわからない」ということだ。

地方だけでなく東京・大阪といった都市圏ですら、訪日中国人富裕層への理解は非常に不足しており、ビジネスチャンスを逸失している状況だと筆者は痛感している。

今回は、地方にとっても訪日中国人富裕層を取り込むには有望なジャンルのひとつである「グルメ・ツーリズム」をご紹介したい。

訪日中国人富裕層のこだわりとは?

彼らのいちばんのこだわりは、間違いなくグルメだ。昔から中国人は「美味」を好む。貧困時代を乗り越え、経済状況がよくなった時期の最初の象徴は食卓だった。食べきれないほどの料理でおもてなしするのが、中国人ならではの流儀で、食べきれる量しかないということは貧乏くさい、ケチっぽいという意識を持っている人も多い。

海外旅行では、西洋料理などを楽しみにミシュランの星付きレストランに行くが、不慣れな食材や調味料が多く、必ずしも口に合わないことも事実である。

しかし、日本料理は違う。同じアジアなので、食材や好みが近い。また、中国ないし世界中に日本料理ブームがあり、どこに行っても日本料理店(中国語だと「日料」(リーリョウーと読む)があちこちにある。ただ日本以外の国にある日本料理店はとにかく高価だ。

余談になるが、筆者が「焼肉 牛角」を初めて食べたのは数年前のニューヨークだった。高級日本料理として在米中国人やニューヨークで話題になり、予約するだけでも大変だった。飲み物を注文しなくても1人当たり1万円以上かかった。そんな高級料理の印象が強かったが、日本に留学したら、どこでもあるとてもリーズナブルなお店だと知ったときは大きな衝撃を受けたものだ。

牛角だけでなく、「ラーメン 一蘭」「大戸屋」など日本のチェーン店から、本格懐石和食まで海外におけるブランディングが上手だったので、「日本レストラン=高い」というイメージが世界中で醸成された。中国国内でも同様で、店員もお客も日本人がいない懐石料理店では、1人当たり2万〜3万円が普通。日本人料理人が仕切るところだと、1人当たり5万円であっても予約でいっぱいなのだ。

したがって、「高級」なイメージのある日本料理の本場に来たら、何より楽しみたいのは、日本食だ。「寿司」「和牛」「懐石料理」などは有名なので、ぜひ本場の味、本当の高級グルメを楽しんでみたい気持ちが強い。値段についても寛容で、「いちばんいいものを出してくれたらOK」という考えである。

こうしたニーズの高まりを受けて、近年では「グルメ+温泉(+聖地巡礼)」のオーダーメード型富裕層旅行が少しずつ広まっている。

筆者は主催者の1人であるAさんに話を聞いた。今年34歳のAさん自身は日本ファンで、訪日中国人の若者の典型例である。Aさんは中国の大手企業で勤務している。

Aさん夫婦は両家の親からもらった計2億円の不動産を持っていて、2人の会社員としての年収は合わせて800万円ぐらいの「プチ富裕層」である。

小さい頃からおいしいものを食べて口が肥えており、食べるのが大好きだ。また、「スラムダンク」「名探偵コナン」などの日本のアニメファンでもある。

数年前から日本に来るようになり、日本語は片言だが、ネットで予約可能な日本のミシュラン星付きレストランに行ったり、アニメの聖地巡礼を1人で満喫してきた。そして、食べログ大賞という情報を知った後、日本に住んでいる友人に頼み、受賞レストランを予約してもらい、その予約日に合わせて来日するようにしていた。

そして、食事・観光・聖地巡礼の感想を中国の個人旅行ガイド(旅行攻略)サイトや微博(中国版ツイッター)に寄稿したところ、多数の友人から「私もこういう旅行をしたかった! 連れていってほしい!」と依頼された。そこで、友人らを対象に、友達旅行の感覚で8人程度のスモールツアーを主催するビジネスを始めた(中国では兼業・副業について寛容的だ)。

・少人数(2〜8人)
・地方のみ
・本当においしいレストラン
・日本人でさえ知らない秘湯

というテーマで、年3~4回来日している。ツアー参加者のほとんどは、年収500万元(約8200万円)以上であり、40代以下が多い。

10万円の料理にも「お得感」を感じる中国人富裕層

中国人富裕層の多くは、時間の融通が利き、レストラン・旅館の予約日に合わせて旅行することが可能である。彼らは、欧米旅行も楽しんでいるが、中国人観光客に知られていない本当の日本グルメ、温泉(秘湯)を堪能することで、他人との差別化体験ができ満足感が高い。さらに、体験者の口コミにより、中国人富裕層の間で日本の地方への関心がますます高まっているようである。

Aさんが企画するのはグルメと秘湯をめぐる典型的な旅行だが、季節によって内容も違う。例えば、今年の五一休み(中国では5月1日はメーデーで休日だ)にあわせて来日する旅程では、まだ桜が残っているかもしれない北陸、甲信、そして関東(具体的には金沢、和倉、富山、立山黒部、山梨、東京)を回る予定である。兼六園、金沢21世紀美術館など観光スポットを見学し、「花嫁のれん」の観光列車に乗る。日本人観光客と変わらない日程である。1人1泊3万円以上の旅館に泊まる予定だという。

また、旅のメインである食事は、食べログ大賞ブロンズ、シルバー、ゴールドやミシュラン星付きレストランのみを訪れる予定で、食事代は1人1食1万5000〜5万円である。参加者は日本の自然の美しさに触れ、癒やされる。また、日本でなければ絶対食べられない料理であれば、たとえ1食10万円であっても、「お得感」を受けるようだ。

1週間程度で回る上記ツアーの料金は航空券代と宿泊代・飲食代で少なくとも100万円はくだらない。それだけではなく、中国人富裕層は、買い物欲も旺盛なので地方にとってはビッグチャンスだ。

お土産の最近のトレンドは、高級日本酒がダントツの人気だという。すでに「獺祭」は中国でも有名になりすぎたため、中国人富裕層の間では1本10万8000円(税込み1800ml)の喜久水酒造の大吟醸「朱金泥能代醸蒸多知」が人気だ。それには2つの理由がある。

1つは、「いちばん高いもの=いちばんいいもの」「高いもののほうがコレクションとしての価値がある」という考えが普通であること。2つめが、中国人富裕層は酒をコレクションする趣味を持つ人が多いということ。ウイスキーやワインでは値段が青天井だが、日本酒や焼酎を酒のコレクションとして考えたときに相対的に価格が安いという心理が働くのだという。

こうした買い物も含めると、1週間程度の滞在で、1人当たりの消費支出は平均200万〜300万円にも達する。

日本の課題とは何か

こうした中国人富裕層の地方観光の事例は、地方経済に貢献するポテンシャルの高さを感じさせる。ただし、彼らを呼び込み、満足度を高めるためには、いくつかの課題もある。

旅館の施設水準と接客対応

Aさんだけではなく、ほかの訪日中国人富裕層を対象としたビジネスをしている人たちの話を聞くと、「高級旅館」のイメージに合致する地方の旅館がほんの一握りしかないという。

現状では、「部屋は古くてタバコ臭いが、伝統がある旅館だし、温泉の質がとてもよいので、(そこは目をつぶって)楽しんでください」と説得するしかないという。

今の多くの旅館の施設や接客は、残念ながら富裕層向けではない。これからの地方インバウンド政策を検討する際、富裕層、あるいは訪日外国人のニーズを取り入れ、変えていく必要があると思われる。

外国人を受け入れる意識がまだまだ足りない

もう1つは外国人対応である。

レストランでも宿泊先でも、外国人であることを理由に予約を断るケースが絶えない。レストランでも、1回行ったことのあるミシュラン星付きレストラン、または外国人客を積極的に誘致しようとしているお店であれば比較的簡単に予約でき、体験自体も楽しい。

一方、お客の中に日本人がいること、あるいは日本人が予約するように要求されることもある。外国人だからといって必ずしもドタキャンするわけではない。日本人だけが口も肥えていてマナーがわかるとも限らない。外国人に対するマインドセットの見直しは、地方のみならず、日本のインバウンド戦略として、クリアしないといけない課題である。

富裕層向けのビジネスはまだまだ足りていない

プライベートコンシェルジュ対応

プライベートコンシェルジュとは、訪日外国人富裕層をアテンドする、個人のコネクションでビジネスを展開している人たちである。「雇ったガイド」より、「友達の知り合いで日本に詳しい人」のほうが、信頼感も親近感もあり「ディープな旅行ができそう」という期待も高まる。

しかし、プライベートコンシェルジュに話を聞くと、とくに(海外にいる)外国人のプライベートコンシェルジュが、ホテルやレストランに予約を入れるとき、自治体に問い合わせをするとき、あるいはホテルに行ってプランを提案するときなどでは、相手にされないケースが多いという。

実際、兼業あるいは個人で携わり展開する人も多くいるので、信頼関係を構築するのが難しいのも一因と思われる。今後は、富裕層向けプライベートコンシェルジュの認定制度や、資格者組織の設立などにより、信頼関係の構築を支援していくことも考えられる。

いずれにしても、グルメ・ツーリズムの訪日中国人富裕層は、消費単価が高く、旅行への目が肥えていて、質の高いサービスを提供すればリピーターになりやすい、上質な顧客である。

これらの顧客に対応した観光商品の開発は、地方に眠っているグルメ、観光資源を見直すよい機会となる。今回、取り上げた課題などを改善しながら、本当のファンを育成し、地域創生につなげることを検討してはどうだろうか。

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