戻る


伊藤詩織さんを逆提訴で1億円請求、「安倍首相ベッタリ記者」のメンタリティ

事件から4年の月日が流れた……

写真拡大

 安倍総理ベッタリ記者こと山口敬之・元TBSワシントン支局長(52)に準強姦容疑で逮捕状が発付されて早4年。山口記者は、「レイプされた」と訴える伊藤詩織さんに1億3千万円の損害賠償を請求している。

 ***

 他人(ひと)のフンドシで相撲を取るような者はその重みをよく知っていて、だからこそ、そのフンドシは自分のものだと思い込みたいものだ。

 例えば、ものした著作二つの表紙いずれにも、安倍晋三首相の写真を使う書き手のメンタリティは、その最たる例であろう。

 真偽のほどは判然としないが、その書き手、すなわち山口敬之記者の著書は、TBS時代に経験した「オレオレ自慢」に溢れていて、

〈中川昭一代議士の通夜に安倍さんから誘ってもらえるオレ〉

事件から4年の月日が流れた……

〈衆院解散用の会見原稿を安倍さんから読み聞かされるオレ〉

〈安倍さんから“山ちゃん”とあだ名されるオレ〉

〈安倍さんから麻生さんへのメッセンジャーを依頼されてちょっと困るオレ〉

 などといった具合である。

 あるいは彼には、特捜検察に助成金詐欺容疑で逮捕・起訴されることになるスパコン会社の顧問の顔もあった。この会社は、ザ・キャピトルレジデンス東急の家賃約200万円の部屋を自由に使わせるという厚遇で山口記者を迎えていた。それはともかく、スパコンの営業先にこの著書を名刺代わりに持ち込み、〈時の最高権力者と仲良くしてきたオレ〉というアピールが、彼の口から語られたこともあった。

 そんなこんなで「総理ベッタリ」と呼ばれる山口記者には、「彼にレイプされた」と訴えるフリージャーナリスト・伊藤詩織さんとの間に民事の係争案件が存在する。

 詩織さんは2017年9月に山口記者に1100万円の損害賠償を求めて提訴したが、19年2月になって今度は、山口記者が1億3千万円を求めて反訴するに至ったのである。

取り消された逮捕状

 ここで改めて、「レイプ」から係争に至る経緯を振り返っておこう。

 15年4月3日、TBSのワシントン支局長だった山口記者が一時帰国した折、TBSへの就職を検討していた詩織さんと会食した。山口記者のホームグラウンドである東京・恵比寿で2軒目までハシゴしたところから意識を失った彼女は、その後タクシーに乗せられた。車中で彼女は嘔吐しつつも、タクシーは港区内のホテルへ。翌日早朝、性行為の最中に目が覚めた。

 詩織さんの刑事告訴を受け、高輪署は捜査を開始。その年の6月、準強姦容疑での逮捕状を携えた高輪署の捜査員が、機上の人となっていた山口記者を逮捕すべく成田空港でスタンバイしていた。しかし、その直前に逮捕は中止された。それは、当時の警視庁刑事部長で現・警察庁官房長の中村格(いたる)氏が、「(逮捕は必要ないと)私が決裁した」と本誌(「週刊新潮」)の取材で認めている通りである。

 中村氏は菅義偉官房長官の秘書官を長らく務め、その絶大な信頼を得ており、総理ベッタリ記者逮捕の中止命令は官邸への忖度ではという疑問が世の中に今もなお燠(おき)のように燻(くすぶ)っているのだ。

 警察庁の関係者によると、

「(警視庁)本部の(捜査)1課から、(捜査を担当する)高輪署の刑事課長に“この件はこちらで引き取る”旨の連絡があったようです。課長は“捜査介入だ”なんて言えません。“はい、わかりました”ということで、諒とするわけです」

 捜査を継いだ警視庁からの書類送検を受けた東京地検は、ほぼ1年後の16年7月に不起訴と判断。詩織さんは17年5月、検察審査会に審査申し立てを行なったものの、9月に「不起訴相当」の議決が出た。

 そこで詩織さんは弁護団と協議のうえ、山口記者を提訴していたのだった。訴状の中には、かねて本誌で報じてきた事実とともに、吐き気やパニック症状が続発する窮状が綴られている。山口記者のことを思い出したり、事件シーンが突如として脳裏に甦ることがあるからだ。

本質はデマゴーグ

 その後、山口記者側の訴訟代理人が辞任するなど、紆余曲折を経て、今回の反訴に打って出たわけだ。山口記者ご当人にも取材を依頼したところ、担当の北口雅章弁護士は、

「反訴状に記載のとおりです」

 などと回答したので、その中からざっと紹介すると以下の通りになる。

(1)1億3千万円の賠償金支払いと全国紙・ウェブ上に謝罪広告を掲載する。
(2)詩織さんと性行為をしたことは事実だが、合意のもとだった。詩織さんは行為当時、意識を有していた。
(3)詩織さんの訴えは「悪質な虚構」。
(4)詩織さんの活動は「政治目的」「経済目的」。

(1)については、詩織さんに強姦被害を訴え続けられたことによる、名誉や信用の毀損、プライバシー権の侵害を主張。更にジャーナリストとしての社会的生命を絶たれたことなどによる営業損害1億円を挙げる。16年度まではテレビ番組出演などの営業収入1411万円ほどに加え、顧問料が744万円あったのに、18年度は無収入に陥った。名誉を回復して従前通りの収入を得るための時間を見積もって、約2千万円×5年=1億円の計算になるというのだが、名誉毀損裁判に明るい弁護士はこう見る。

「個人が提起する名誉毀損の裁判で損害賠償の請求額が1億3千万円というのは、ちょっと耳にしたことがないほど高額です。印紙代もかなり高額になりますから。たとえば過去に、スーパー大手のイオンが週刊文春を発行している文藝春秋に対し、1億6千万円の損害賠償を請求したケースはありましたが、それは企業同士の話です。これほど高額になったのは、名誉毀損で減収した報酬をすべて損害として計算したということのようですが、それ自体がかなり珍しく、無理筋かなと思います」

 ともあれ、(2)に話を進めると彼は、詩織さんは「酒の飲み過ぎで失態を演じたことに気付き、意図的かつ執拗に性的交渉に向けた働きかけをしてきた」と訴える。フンドシならぬパンツは脱いだ、しかしそれは、〈家庭もあり家族もあり、見識もある「大の大人」〉たる自身の意思によるものではないというわけだ。事件直後のメールでは、

〈あなたのような素敵な女性が半裸でベッドに入ってきて、そういうことになってしまった。お互いに反省するところはあると思うけれども、一方的に非難されるのは全く納得できません。あなたが妊娠するという事はあり得ないと考えています。でも、あなたが不安なのはわかりましたから、こちらで出来る事は喜んでします(略)〉

 と、詩織さんに幾らか寄り添う姿勢があったのに対し、大きな乖離が窺える。

 ちなみに避妊具なしで性行為に及んでいるのだが、この点を詩織さんにメールで指摘された時には、

〈精子の活動が著しく低調だという病気です〉

 と答えている。

(3)では、「ホテル内では足が地につかなかった」という詩織さんの訴えに対し、山口記者に支えられながらも自立歩行しており、彼女の証言は虚構だと述べる。

(4)については、次のように口を極めて罵っている。

 詩織さんは性犯罪被害を訴え、「悲劇のヒロイン」を演じ、一躍有名になった。折から「#MeToo」運動の「先駆的存在」として祭り上げられるとともに、性暴力被害に関する社会問題を扱う講演・企画、報道番組、出版社等からの出演・原稿執筆等の依頼が殺到した。

 逆に山口記者には「憎むべき女性の敵、不逞の性暴力犯罪者」といったイメージが定着。山口記者の高度な社会的認知度・著名性を「踏み台」として悪用しつつ、自らは「性暴力被害を訴えるジャーナリスト」としての「売名」を図ったというべきもので、その本質は「デマゴーグ(大衆扇動者)」である――。

思わず呆然と…

 さて、反訴を受け、詩織さんに聞いてみると、

「アフリカのシエラレオネで取材をしている際に、反訴が提起されたことを知りました。1億3千万円という損害賠償の金額に、思わず呆然としてしまいました。被害を受けても、私たちには必死に生き続けなければいけない日常があります」

 そもそも、17年9月に山口記者を提訴した動機をこんなふうに振り返る。

「本件ではDNAの鑑定結果やホテルの防犯カメラの映像、さらにタクシー運転手の方の証言などの様々な証拠が集められています。だからこそ、裁判所は警察に逮捕状を発付したのだと思います。それにも拘らず、検察からはなぜ事件が不起訴にされたのか説明されませんでしたし、検察審査会も『不起訴相当』という議決の結果を示すだけで、検察審査会でどのような証拠が検証され、どのような議論がされたのか、明らかにはされませんでした。このような司法の不透明さに疑問を感じ、民事裁判に訴えるに至ったのです」

 日本や世界でその後起こった#MeToo運動については、

「司法記者クラブでの会見の半年後に#MeToo運動が起きて、“1人じゃない”ことを私も実感しましたし、それは私を含めて、多くの(性被害からの)サバイバーの方々の支えになったと思います。欧米と比べれば、日本では大きなムーブメントにはなっていません。それでも1年前に週刊新潮が報じた財務次官のセクハラ問題などを始め、この問題がメディアでしっかりと取り上げられるようになったのは大きな変化だったと思っています」

 先に触れたように、日本にいると事件のことが思い出されてパニックになり、脅迫も度重なるという彼女は現在、基本的にロンドンに移り住み、ドキュメンタリーの制作を行なっている。

「昨年はBBCで日本の性暴力の問題について取り上げることができました。アフリカでFGM(女性器切除)について取材を進めていますし、取材を始めてから5年目になる夕張市のドキュメンタリーについても、来年の完成をめざしています。これら2本の作品は昨年、スウェーデン人ジャーナリストと立ち上げたドキュメンタリー制作会社『Hanashi Films』によるものです。この会社では、特にジェンダーの問題や、ヒューマンライツに焦点を合わせた作品を創ることに力を注いでいます」

口説く余力などない?

 反訴状を見ると、事件当日の山口記者は、

〈過密なスケジュールのもとで忙しく活動して(中略)疲労を蓄積させ(中略)、親子ほどの年齢差のある若い女性を口説く精神的余力などないはずで、「少しでも早く寝たい」「早く休みたい」と思うのが人情である〉

 状態だったという。しかし、その会食前のアポ取りメールでは、連日に亘って、

〈ところで、ヤボ用で一時帰国する事になったんだけど、来週は東京にいますか?〉

〈来週後半、空いてる夜ある?〉

 と明確に誘っているのだ。

 山口記者がかつて本誌に回答したように、「法に触れることは一切していない」と言うのなら、こぞって起用していたテレビメディアがソッポを向くことはなかったはずだ。

 同じく反訴状では、

〈ジャーナリストとして社会的生命を絶たれたオレ〉

 とアピールするが、そういう結果になったのは、「ベッタリ記者の代わりは幾らでもいるから」と、テレビ局自身が気づいたからではないか。

「週刊新潮」2019年4月18日号 掲載

原文リンク

本站帖子來源於互聯網,轉載不代表認可其真實性,亦不代表本站觀點!
關於本站| 官方微博| 私たちの関心網| よくある問題| 意見反饋|copyright 私たちの関心網