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お疲れ女子がディープにハマった「銭湯」の魅力


仕事に疲れてしまった女子がハマった銭湯の魅力とは?(写真:本井良尚/PIXTA)

『銭湯図解』を書いた老舗銭湯24軒をイラストとエッセーで紹介した本が人気を集めている。脱衣所や浴室の造り、お湯の色に鏡の形、お風呂いすのサイズ、それぞれ違って実に細やか。空間全体からタイル幅まで建築図法を用いて実測しながら、柔らかな線と色彩で再現した。ページをめくるうちに、湯船につかる心地よさがジンワリ染みてくる。おけを床に置いたときの“コーン”という残響まで聞こえてきそうな、銭湯愛に満ちた1冊。著者の小杉湯番頭兼イラストレーターの塩谷歩波氏に聞いた。

ガイド本とは違う側面で銭湯を語りたかった

──銭湯にハマったきっかけは、前職の設計事務所で頑張りすぎて疲れてしまったこと、だったとか。

私自身がのめり込みやすい性格で、時間を気にせず目いっぱい仕事をし、夜中に自転車で帰っていました。自分の生活をおろそかにしてたんです。それで体調を崩しちゃった。会社はだいぶ気遣ってくれましたが、医師の診断で3カ月休職することに。その間に友人と一緒に銭湯に行ったのが、本格的な出合いでした。

学生時代にも泊まり込み作業のときなど、家風呂代わりに銭湯に行ってはいたんですが、このときの見え方は、全然違ってた。精神的に追い込まれ、体が硬直してカチカチになっていたのが、昼間の銭湯ですっかり癒やされ、肩の力が抜けた。たまたま来ていたおばさんとたわいない話をするのも、とてもすてきな時間でした。あつ湯と水風呂に交互に入る交互浴という入浴法があるんですが、それが私に合っていたみたいで、通えば通うほど体調がよくなった。お医者さんにも、体を温めるのはいいから、と勧められました。

──絵に手書き文字風の吹き出しが付いていて、各銭湯の印象がより深まります。印象に残ったのが、18番目に登場する東京・武蔵境「境南浴場」のサウナの箇所。「つらいことがあったとき、ここで汗だか涙だか分からなくなるぐらい泣くのがよい」と。つらかった時期の記憶がふとよみがえった?

そうですね。境南浴場は絶対に描こうと決めていました。泣くために行くって、なかなかないですよね。そういう接し方を銭湯とできるなんて思ってもみなかった。今回本にするに当たって、ガイド本やうんちく本とは違う、自分の経験を通した、少し違った側面で銭湯を語りたいと思いました。

東京なら12歳以上は1人460円。ジェットバスもあれば電気風呂もある。お湯もサウナもいろんな種類があります。場所も街中が多く、ランニング後に寄って汗を流すとか、銭湯帰りに近くの居酒屋で一杯とか、人と街のつながりをすごく感じられる場所。その街の個性をいちばんとどめているのも銭湯ではと思います。

突っ込みドコロが多いのがいい銭湯

──職場以外の、別の居場所を探してる人には絶好の場かも。


塩谷歩波(えんや ほなみ)/1990年生まれ。2015年早稲田大学大学院(建築学専攻)修了後、都内の有名設計事務所に入社。2016年末から銭湯の建物内部を俯瞰図で描く「銭湯図解」をSNS上で発表。2017年3月に小杉湯へ転職。Web媒体「ねとらぼ」や雑誌『旅の手帖』でも連載を持つ。(撮影:今井康一)

お湯につかって話をしていても、「ごめん、のぼせたからちょっと行くね」と次へ移動していくので、会話が軽やかなんですね。それもすごく居心地がいいと思うんです。長話したければすればいいし、突っ込んだ話になるのが嫌だったら、「のぼせた」って言って出ちゃえばいい。とくにかつての私のように、疲れ果てて心を閉ざしているような人なら、銭湯は安いからいつでも行けるし、体を温めることが健康にもいい。いろんな人がいて軽いおしゃべりをする。リハビリに最適な場所です。

──これまでに何軒くらい回ったのですか?

200軒くらい行って、そのうち描いたのが60〜70軒。

──ここは描かなくていいや、というのも中にはある?

うーん、まあまあ、ある程度は。あまり元気がない銭湯は描きにくいかなと思います。もうずっと同じ状態で運営しているようなところや、最低限の掃除で済ませてるような銭湯さんは、正直元気がない感じがします。おじいちゃん、おばあちゃんでやっているところなどは肉体的にキツい部分もあるので、それはそれでしょうがない。まあ銭湯ごとに事情があると思うので、あまり悪くは言いたくないです。ただ、すごい投げやりな感じで番台に座られると、「ん?」って気分にはなりますけど。

──塩谷さんにとって“いい銭湯”とは?

突っ込みドコロが多い銭湯! 例えば、千葉・習志野の「クアパレス」など最たるもので、ロココ調の絢爛(けんらん)な脱衣所や化粧室、浴室も天使の彫刻など装飾だらけでまるでベルサイユ宮殿。シャワーを出すとLEDでノズルが光るとか、サウナの中にテレビが4台あるとか、何かちょっと変なんです(笑)。

行った瞬間にほれてしまいました。派手さだけでなく、お風呂のクオリティーや気配りもうれしくて、採算とか関係ない何かしら店主さんのこだわりが強い銭湯。そういうのを見ると描きたくなっちゃうし、なぜこんなふうにしたんですかって聞きたくなる。

ほかにも、東京・墨田の「薬師湯」ではユニークなお湯が次々登場するんですが、いちばんすごかったのがトムヤムクン湯。別にトムヤムクン湯のもとがあるわけじゃなく、数種類の入浴剤を調合したオリジナルのお湯で、実際に入ってみたら本当にトムヤムクンでした!

銭湯とセットでいろんな遊び方ができる

──業界は衰退の一途をたどる一方、大手セレクトショップがコラボ企画をしたり、最近また銭湯ブームが来ている。なぜでしょう?

今、過渡期なんだと思います。銭湯の数がピークだった50年前とは違い、家風呂が普及したから数が減るのは当たり前。でも実は東京には、マクドナルドより多いくらいの銭湯があるんです。意外にある。だから、よく「斜陽産業の銭湯を救うために活動してるんですか?」と聞かれるんですけど、すごく違和感を覚えます。そもそも全盛期を知らないし。

そんなことより、家風呂代わりでしかなかった銭湯に、全然別の存在感があると、みんなが気づき始めてる。私もそれを発信していきたい。それが回り回って銭湯全体が少しでも明るくなればいいな、と思うんですけど。

──今後はどんな計画ですか?

小杉湯がある東京・高円寺に越してきて2年。自分にとってすごく居心地のいい場所になるにつれ、同じくらい高円寺の街にも愛着が湧いてきた。お風呂帰りにこの店へ行くとおいしいよとか、この公園で涼みながらのビールがオススメですとか、銭湯とセットでいろんな遊び方ができる。銭湯の絵を描くことをライフワークにしつつ、街へ広げてみるのもいいかなと思っています。

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