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アリがゾンビに!? 死ぬ場所・時刻まで操る恐ろしい寄生生物の正体とは 【えげつない寄生生物】

アリがゾンビに!? 死ぬ場所・時刻まで操る恐ろしい寄生生物の正体とは…(イラスト・村林タカノブ)

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 ゴキブリを奴隷のように支配したり、泳げないカマキリを入水自殺させたり、アリの脳を支配し最適な場所に誘って殺したり――、あなたはそんな恐ろしい生物をご存じだろうか。「寄生生物」と呼ばれる一見小さな彼らが、自分より大きな宿主を手玉に取り翻弄し、時には死に至らしめる様は、まさに「えげつない!」。そんな寄生者たちの生存戦略に、昆虫・微生物の研究者である成田聡子氏が迫るシリーズ「えげつない寄生生物」。第4回は「アリをゾンビにするキノコ」です。

 今回、恐怖のどん底に落とされた主人公はブラジルの熱帯雨林などに住む「カーペンターアリ」です。群れを離れて、ふらふらと歩きだした仲間は、この時すでに「あるもの」に心も体も乗っ取られていました。その「あるもの」とは「キノコ」や「カビ」の1種です。鍋に入れたり、焼いたり、炒めたりするだけで簡単に美味しくいただけるあのキノコの仲間です。

アリがゾンビに!? 死ぬ場所・時刻まで操る恐ろしい寄生生物の正体とは…(イラスト・村林タカノブ)

 キノコは真菌と呼ばれる生物の1種です。この真菌には、キノコ・カビ・酵母などが含まれます。細菌よりも大きく、細胞の中に細胞核と呼ばれる細胞小器官をもっています。
 キノコは、木や土の中に菌糸を張ります。この表面に出ない菌糸の部分が、キノコの本体ですが、私たちはほとんど目にすることはありません。では、いわゆる「キノコ」として売られて私たちが食しているあの部分は何でしょうか。それは、「子実体」と呼ばれるものです。ゾンビアリの頭からニュルリと出てきたのは、実はこの「子実体」の部分です。このように、子実体としてのキノコを作り、そこから大量に次のキノコの種となる胞子を撒くのです。

あるカーペンターアリの物語(1)

 キノコとカビは分類的にはほとんど差がありません。唯一の違いは、胞子を作る「子実体」が、キノコの場合は肉眼で見える程に大きくなり、カビは大きくならないという点です。「キノコ」という名称も、菌類のうちでも比較的子実体が大きいもの、あるいはその子実体じたいにつけられた俗称なのです。

 今回、アリの頭から生えてきた子実体は肉眼でも見えますが、食べ応えがあるほど大きくはないので、ここではアリから生えてきたものは「カビ」と呼ぶことにします。

 では、この先は頭からカビが生えたアリの体内で何が起こっていたかを見ていきましょう。

あるカーペンターアリの物語(2)

アリ体内に侵入する寄生カビ

 カーペンターアリに感染して寄生するのはカビである子嚢菌類の1種です。

 感染の経路はまずカビの胞子がふわふわと上から落ちてくるところから始まります。そのカビの胞子はアリの「気門」から体内に侵入します。「気門」は昆虫特有のもので、空気を取り入れるための器官です。体内に入ったカビはアリの組織を溶かしながら進み、最終的に脳にまで深く侵入していきます。そして、アリの脳まで達すると、アリの脳を支配し、アリの行動を操ることができるようになります。このカビに感染したアリは、感染して死亡するまで3〜9日ほどかかります。この間、アリの体内ではカビの感染が広がっていますが、自分の巣で他のアリと接触し、エサも食べるなど、いつもどおりの生活をおくります。

脳をのっとられたゾンビアリの目指す場所

 アリ体内に広がったカビの発芽時期がくると、アリの行動は完全にカビに支配されます。フラフラとゾンビのように歩き回って、体内にいるカビの生育に最適な温度と湿度の環境を探します。カビにとって好都合なジメジメとした暖かい場所まで移動すると、アリは植物によじ登って葉に大顎で噛みつきます。そして、葉の葉脈の部分にガッチリと噛みつき、体を葉にしっかりと固定させます。この行動の後に、アリは絶命します。しかし、アリが死んだ後であっても、アリの噛みついた顎は外れず葉にくっついたままになっています。

 寄生されたアリを観察した論文では、このアリを解剖したところ、葉脈に噛みついた時点で、アリの頭部はすでにカビの細胞で充満していたことが分かりました。さらに、寄生されたアリは下顎や顎の筋肉が萎縮していました。これにもカビの戦略があると考えられています。寄生カビは下顎や顎の筋肉の中のカルシウムを吸い上げ萎縮させることで、死後硬直と同じ状態を作り出していたのです。このことにより、アリが死んでも、顎が葉から外れることを防いでいると考えられました。

死ぬ時刻さえ操られる

 この寄生カビは感染したアリの死ぬ場所だけでなく、その時刻さえ精密に操っていることが分かってきました。

 このカビに寄生されたアリは、ほぼすべての個体が正午近くに死ぬべき最終地点に到達します。アリが葉脈に最後に噛みつくのは正午ですが、実際にはアリは日没まで生きています。そして、日没になると絶命します。その後、夜になると寄生カビがアリの頭を突き破って発芽します。アリの体内にいるカビは、アリの体の中にいるときは守られていますが、発芽して外に出ると無防備な状態になります。多くのカビの場合と同様に、この寄生カビも高温や太陽光には弱く、暑い日中に発芽してしまうと死んでしまう確率が高まります。そのため、アリの頭を突き破って発芽するプロセスを、涼しい夜の間におこなうようアリを操っていると考えられています。

 そして、アリの死骸を苗床としてアリの頭から子実体をニュルリニュルリと発芽させます。この子実体が大量に抱えた次のカビの子となる胞子を、放出します。このカビの胞子は粉状で、それが地上にゾンビパウダーのごとく降り注ぎ、地上にいるアリに再び寄生するのです。

 このように、自分の意思で動くこともできず、粉(胞子)と菌糸でできているカビのような生物であっても、寄生した相手の行動を複雑に操作する驚くべき戦略を持っているのです。

ゾンビ昆虫は健康に良い?

 カーペンターアリに寄生するカビのように昆虫の行動さえ操るカビはとても珍しいです。しかし、昆虫の頭からニュルリとカビの子実体が出てくる例は他にもあります。

 それは、「冬虫夏草(とうちゅうかそう)」です。この冬虫夏草は、古来から強壮・精力増強、疲労回復、諸病治癒、不老長寿に著効ある高貴薬として、中国の宮廷を中心に常に珍重されてきました。

 実は冬虫夏草とは、昆虫と菌種の結合体で、セミやクモなどの昆虫に寄生したカビの総称です。これらの昆虫もカビに寄生され、昆虫の死後、その頭からこん棒状のカビの子実体を発芽させるのです。

 高級漢方としては、コルディセプス・シネンシス(Cordyceps sinensis)と呼ばれるコウモリガ科の幼虫に寄生したものが有名です。

高級漢方ゾンビ昆虫ができるまで

 冬虫夏草は冬の間は虫であり、夏になると草(キノコ=カビ)になってしまうという不思議な現象から付けられた名前です。冬虫夏草のでき方を見ていきましょう。

 夏の間、昆虫は卵から幼虫に成長し、土の中に潜っていきます。土の中に潜った幼虫は植物の根の栄養分をエサとして成長します。この時、この土の中で「冬虫夏草」のカビに感染してしまうのです。

 カビは生きた昆虫の体内に侵入し、昆虫の栄養分を体内で吸収しながら、広がっていきます。カビに養分を取られた昆虫は危険を感じるようになり、必死に地面からはい出ようとします。しかし、地面から出る前にカビのせいで死んでしまうのです。

 土の中で死んだ昆虫の体内ではカビが死肉から養分を吸収して成長を続けます。このとき、寄生された昆虫は外側は昆虫の形をしたままですが、中身はカビに食いつくされています。外見は昆虫ですが、その中身はカビ、まさに、ゾンビ状態です。この状態が「冬虫」と呼ばれます。

 そして冬が終わり、夏がくると、このゾンビ化した昆虫の頭から発芽した小さな頭(菌の子実体)が地表に出て、少しすると子実体はこん棒状にニュルリと伸びます。これが「夏草」と呼ばれ、「冬虫夏草」が完成します。

 そして、その生態は多くの謎に包まれています。ですが、カビと宿主である昆虫種の組み合わせはほぼ決まっています。

※参考文献
Andersen, S.B., Hughes, D.P. (2012) Host specificity of parasite manipulation : Zombie ant death location in Thailand vs. Brazil. Communicative & Integrative Biology 5 : 163-165.
Evans, H.C., Elliot, S.L., Hughes, D.P. (2011) Hidden Diversity Behind the Zombie-Ant Fungus Ophiocordyceps unilateralis : Four New Species Described from Carpenter Ants in Minas Gerais , Brazil. PLoS ONE 6 : e17024.
Hughes, D.P., Andersen, S.B., Hywel-Jones, N.L., Himaman, W., Billen, J. and Boomsma, J.J. (2011) Behavioral mechanisms and morphological symptoms of zombie ants dying from fungal infection. BMC Ecology 11-13.

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次回の更新予定日は2019年5月3日(金)です。

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連載一覧はこちらhttps://www.dailyshincho.jp/spe/parasite/から。

成田聡子(なりた・さとこ)
2007年千葉大学大学院自然科学研究科博士課程修了。理学博士。
独立行政法人日本学術振興会特別研究員を経て、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所霊長類医科学研究センターにて感染症、主に結核ワクチンの研究に従事。現在、株式会社日本バイオセラピー研究所筑波研究所所長代理。幹細胞を用いた細胞療法、再生医療に従事。著書に『したたかな寄生――脳と体を乗っ取り巧みに操る生物たち』(幻冬舎新書) 、『共生細菌の世界――したたかで巧みな宿主操作』(東海大学出版会 フィールドの生物学)など。

2019年4月19日 掲載

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