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テッポウエビが発する「プラズマ衝撃波」を再現するロボットハサミ、米研究者らが開発

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テッポウエビは想像を絶する生きものだ。体長わずか数センチメートル。片方のハサミは分相応の大きさだが、もう片方のハサミは巨大で、それをすさまじい力で閉じることによって衝撃波を発生させ、獲物を気絶させる。

ハサミの2つの刃が噛み合う瞬間に気泡が発生し、すぐさま破裂する。これによってプラズマの閃光と、4,400℃もの高温が生じる。信じられない話だが、手のひらに乗るくらい小さな水生生物が、はさみをパチンと鳴らすことで、超高温の気泡を兵器に変えるのだ。

研究者たちがいま、この恐るべき力の応用方法を模索している。学術誌『Science Advances』に3月15日付で掲載された論文で、ある研究チームがテッポウエビのプラズマ銃を真似たロボットハサミを製作し、プラズマを発生させることに成功したと報告した。生物進化が産んだこの奇抜な能力をうまく改良できれば、さまざまな水中での用途が考えられる。

テッポウエビは、プラズマの衝撃を生み出す武器をさまざまな用途に使っている。狩りに使うのはもちろんのこと、スナップ音でコミュニケーションもとっていて、その音量は210デシベルにも達する(本物のピストルは150デシベル程度だ)。プラズマ衝撃波を使ってサンゴ礁に巣穴を掘る種もいる。おかげで海底は実に騒々しく、ソナーに干渉を起こすほどだ。

脱皮後の殻を使ってハサミを3Dプリント

テキサスA&M大学の機械工学者デイヴィッド・スタークは、テッポウエビの多機能ハサミは人間にも役立つのではないかと考えた。彼のチームは、まずは何匹かの生きたテッポウエビを入手した。

ほかの節足動物と同じく、テッポウエビも定期的に脱皮する。成長するにつれて小さくなった外骨格を脱ぎ捨てるのだ。

この脱皮後の殻を使ってスタークはハサミの型をとり、それをさらにスキャンして詳細な3Dモデルをつくった。その後、彼はモデルデータを3DプリントサーヴィスのShapewaysに送り、テッポウエビのプラズマ銃のプラスティック版が完成した。

ネズミ捕りの仕組みを応用した実験

スタークは、この独特の構造の付属肢を使って実験を行なった。ハサミの上半分は、普段は引き金を引いた状態でロックされている。その一部(プランジャー)を下半分の受け口(ソケット)に叩きつける構造になっている。

これによって水が急速に押し出され、気泡ができる。この原理はキャヴィテーション(液体の流れで圧力差によって短時間に泡の発生と消滅が起きる物理現象)と呼ばれている。

「バネを使うネズミ捕りのようだと思いました」と、スタークは言う。「そこで、実際にネズミ捕りをいくつか水に沈めてみて、トリガーを外したときにアームがどのくらい速く回転するか試しました。そしてネズミ捕りのアイデアを、ハサミを閉じる仕掛けとして応用したのです」

ロボットハサミが閉じる動作で生じる衝撃波。IMAGE BY DAVID STAACK

スタークがつくったハサミは、バネ仕掛けの軸を中心に上半分のパーツが高速で回転して力を生み出し、プランジャーをソケットに叩きつける。この動作でできた高速の水流が、キャヴィテーション気泡を生む。気泡は最初は低圧で比較的大きいが、すぐに破裂に向かう。

「周囲の水に押され続けることで、圧力と温度が極めて高くなるのです」と、彼は言う。気泡はとてつもない高温になり、プラズマ発光が生じるほどだ。

既存の方法よりも10倍以上も効率的

これと同じ現象は、テッポウエビがハサミを閉じたときにも観察される。「水が外側に押し出されることで衝撃波が出現します」。野生のテッポウエビは、こうして獲物をノックアウトしているのだ。

研究チームはラボでハイスピードカメラを使用し、ハサミの隙間から排出されるジェット水流を観察した。また、その後に生じる衝撃波についても、プラズマ発生時の閃光というかたちで撮影することに成功した。

水中でプラズマを生み出すのは、テッポウエビの専売特許ではない。水中での溶接作業では、プラズマを利用したプラズマアーク溶接という方法が用いられ、こちらも超高熱を生み出す。また、レーザーを使って水中でプラズマをつくりだす方法も確立されている。

とてつもなく強力なスナップによってキャヴィテーション気泡が生じ、気泡は破裂する際に光を発する。IMAGE BY DAVID STAACK

しかし問題は、プラズマアーク溶接やレーザーを用いた手法が非効率的であることだ。ハサミを使ったプラズマ生成なら、既知の手法の10倍以上も効率的だとスタークは言う。ただし、スケールアップするにはさらなる研究開発が必要になる。

ロボット化することのメリット

だが、いま以上に効率化することは可能かもしれない。ロボットハサミであれば、研究者はテッポウエビの生態を忠実に再現する必要はないからだ。

実際、スタークはハサミの上半分を小さくすることに成功した。本物のテッポウエビでこの部分が膨らんでいるのは、付属肢を動かすための筋肉を収納しているからだ。しかし、ロボット版はこのような生物学的な制約を受けない。

スタンフォード大学の生物学者レイチェル・クレインは、テッポウエビと同じくキャヴィテーション気泡を発生させる強烈なパンチを繰り出す甲殻類、シャコを研究している。そのパンチを再現したデヴァイス「Ninjabot」の開発にも携わった経験がある。

クレインは「動物の行動を再現するのは最初のステップです」と語る。「そのあとは、よく観察して、この大きな筋肉は必要ないからカットしよう、といった具合に改良していきます。そうすることで、よりよいシステムを生み出せるでしょう」

ハサミで岩盤を掘削することも可能に?

システムを改良する方法についても、自然から学ぶことは多そうだ。世界の海には数百種のテッポウエビが生息し、それぞれ独自の適応を遂げたハサミを、今日もパチンと鳴らしている。そのうえ、ハサミの形態には、同じ種のなかでも個体差がある。

デューク大学でシャコの打撃能力を研究する生物学者シーラ・パテクは、「進化の前提条件、そしてさまざまな種類のテッポウエビが存在する唯一の理由は、個体差があることです」と言う。つまり、研究チームは独自にロボットハサミに工夫を凝らしてもいいし、テッポウエビが本来もつ多様性からインスピレーションを得て、最初に3Dプリントでつくりだしたハサミ以外の形態を試してみてもいいのだ。

そうして改良されたテッポウエビに着想を得たデヴァイスは、将来さまざまな分野への応用が考えられる。野生のテッポウエビがサンゴ礁に巣穴を掘るように、ハサミが生み出すプラズマを使って岩盤を掘削するのもそのひとつだ。

あるいは、このシステムを使って水分子を分解して過酸化水素をつくることで、水を浄化することも可能かもしれない。「過酸化水素は水中の有機汚染物質を破壊します。水道水の殺菌や排水の浄化を考えるにあたっては、効率は非常に重要です」

そんなわけで、テッポウエビのハサミには、また新たな用途が加わりそうだ。

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