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やりつづければ本物になる。47年も虎のお面をつけて暮らす「新宿タイガー」の生き様

みなさんは、新宿の街なかに出没する「新宿タイガー」をご存じでしょうか?

ピンク色のカツラに虎のお面をつけ、さらに花やぬいぐるみやラジカセを携えている男性。「生きる都市伝説」とも呼ばれ、「新宿タイガーと会うと幸せが訪れる」ともウワサされています。



その正体は、朝日新聞新宿東ステーション勤務の新聞配達員、原田吉郎さん(71歳)。彼はいつから、何がきっかけで「新宿タイガー」になったのでしょうか?

今回、彼に取材できる機会をいただいたので、「怖いもの見たさ」もあり、お面の下に隠された素顔に想いを馳せながら、取材現場に向かいました。

〈聞き手:ライター・楳田佳香〉


【原田吉郎(はらだ・よしろう)】 1948年生まれ。大東文化大学への進学のために上京。そのころから新聞配達を始める。大学中退後の24歳の時に「タイガー」として生きることを決意。現在、朝日新聞新宿東ステーション勤務で、朝刊・夕刊の新聞配達、集金人

楳田:
今日はお会いできて光栄です。以前から新宿のゴールデン街などで姿をお見かけしていたのですが、なかなか話しかける勇気が出ず…

新宿タイガー:
そういう人も多いです。でも、あなたのような女性ならいつでも歓迎ですよ。

楳田:
思った以上に朗らかな方だ…

きっかけはお祭りの出店で出会ったタイガーのお面。直感でこれだと思った!

楳田:
いろいろと伺いたいことがあるのですが…まずは、なぜお面を付けて行動しているのでしょうか?

新宿タイガー:
今から47年前、24歳のときに歌舞伎町の奥にある稲荷鬼王神社のお祭りで、お面がずらっと並んでいる出店を見つけました。

50枚くらいあるなかで、このタイガーマスクのお面と目が合ったんです。

そのとき直感で「これだっ!」と感じて。それからは虎として生きています。

楳田:
えーっと…それまでは何をしていたのでしょう?

新宿タイガー:
長野県松本市で生まれて、1967年に上京しました。大東文化大に進学してからは、新聞奨学生として毎日、新聞配達をしていたんです。


※新聞社の奨学金制度を利用する学生。 学費の一部もしくは全額を新聞社が肩代わりする代わりに、在学中新聞配達業務を行っている

新宿タイガー:
それで大学を2年生のときに辞めて、そのまま新聞販売所に就職して今にいたります。

楳田:
えっ、なんで大学を辞めてしまったんですか?

新宿タイガー:
理由なんてないですよ! 直感で辞めようと思ったんだから。


荒ぶるタイガー

新宿タイガー:
私の決断はすべて直感。ジャングルの虎が心に宿っているからね。

楳田:
直感…虎になった理由も直感でしたよね。

新宿タイガー:
そうそう。出店で虎のお面を見つけたとき「俺は虎だ!」と思って、お面を30枚まとめて買いました。

お面はあと10枚くらいあるから、死ぬまで虎でいられるね。

楳田:
ちなみに、なぜたくさんのぬいぐるみを担いでいるんですか?かなり重そうなんですが…

新宿タイガー:
これは「ファミリー」だからね。重いなんて思ったことないですよ。


総重量10kgは超えているであろうファミリーたち

上京してからほぼ毎日新聞を配達。新宿タイガーの謎の生態に迫る

楳田:
タイガーさんは新聞配達を生業にされているんですよね?

新宿タイガー:
そうです。毎朝3時半に起きて、新聞の仕分けやチラシの折り込みをして、5時から自転車で2時間ほど配達しています。配達エリアは新宿三丁目近辺です。

楳田:
その格好で2時間も…!

新宿タイガー:
朝刊の配達が終わってからは、昼過ぎまで仮眠をとって、15時からはまた夕刊の配達。

今は集金の期間なので、夕刊配達の前に集金もやっていますね。

楳田:
その姿で新聞配達をやっていると、住人の方から変な目で見られることはないんですか…?

新宿タイガー:
ありますよ。虎になったばかりのころは、しばらく白い目で見られていました。当時の朝日新聞本社の担当者も渋い顔をしていましたね。

でも、続けているとどんどんまわりは何も言ってこなくなる。



新宿タイガー:
昔の新宿ゴールデン街はもっと荒れてたから、罵声を浴びせられたり、酔っぱらいに絡まれたりすることもありましたよ。

殴られることもあったけど、それには一切屈しませんでした。

楳田:
えっ!? そんなことがあっても、虎を辞めなかったのはなんでなんですか?

新宿タイガー:
私には心の師匠がいるんです。

ナンバー1がスーパーマン、ナンバー2がブルース・リー、ナンバー3が『007』のジェームズ・ボンド

彼らはどんなことがあっても屈しません。


ちなみにミューズ(女神)はマリリン・モンロー、オードリー・ヘップヴァーン、リズ・テイラー、イングリッド・バーグマンだそうです

楳田:
タイガーさんの行動範囲ってどこなんですか?

新宿タイガー:
新宿、池袋、原宿、渋谷、日比谷、銀座。

昔から人が多いにぎやかな場所に好きで、よく回っています。そして夜は新宿ゴールデン街で飲み明かす。

毎週火曜日は配達が休みだから、月曜日の夜は朝まで飲んじゃいますよ!

暴力に屈さずに生きる姿勢は高倉健から学んだ

楳田:
タイガーさんがなぜ虎になったのか…ということをもう少し伺いたいです。

上京したころ、東京の多くの大学では学生運動をやっていましたよね。そういうことには興味はなかったんですか?

新宿タイガー:
まったくないですね。

当時、同じ新聞奨学生だったひとりが法政大学の学生で、たしかに学生運動に夢中になっていました。

でも、私は暴力に走らずにシネマと美女に夢中。

楳田:
それはどうしてなのでしょう…?

新宿タイガー:
当時は暴力的な風潮にみんなハマっていったけど、私は高倉健さんの『昭和残侠伝唐獅子牡丹』に魅せられたんですよ。

今の虎としての生き方を教えてくれたのは、高倉健さんかもしれないね。



楳田:
具体的に高倉健さんからはどんなことを学んだんですか?

新宿タイガー:
どんなに不条理なあつかいをされても、怒りを内に秘める!

私は虎でも、人を傷つける虎じゃないんですよ。殴られたってやり返さない。ただじっと耐えるだけ。こちらから暴力に走ってもいいことなんてないからね。

続けていれば本物になる。47年以上も虎で生きた男からの教訓

楳田:
野暮なことを聞いてしまいますが、「新宿タイガー」を辞めようと思ったことは?

新宿タイガー:
ないね。死ぬまで虎であり続ける、これで本望なんです。生まれ変わっても虎がいい。

楳田:
なぜそこまで虎にこだわるのでしょうか?

新宿タイガー:
こだわっているっていうよりも、私はもう虎になっているんですよ。

よく「なんで虎なんですか?」なんて聞かれるけど、そこに理由なんてない。

世界に80億人もの人がいて、80億もの生き方がある。自分が「これだ!」と思ったものに対して、突っ走った結果なんですよ。



楳田:
その姿勢を貫けるのはかっこいいです…

私は世間体や人目を気にして、空気ばかり読んでしまうのですが、新宿タイガーさんのように生きるにはどうしたらいいんでしょうか?

新宿タイガー:
簡単ですよ。欲するままに、心の命ずるままに生きるだけです。

そして、やり続けると、それがいつしか本物になるんですよ。

今じゃ新宿タイガーは、新宿という混とんとした街でこうやって認めてもらってるでしょう。それは私が屈することなく、ずっと新宿で生き続けてきたからだと思っています。

楳田:
47年も虎として生きてこられたからこその教訓ですね。

最後に、自分の欲するものがわからないという人はどうすればいいですか?

新宿タイガー:
それを探すのも人生の醍醐味ですよ。

欲するものがわからないってことは、未知の才能がまだ眠っているかもしれないってこと。答えが決まっている人生よりも楽しいでしょう?

長い人生で生きていたら、直感に導かれることが絶対にあるはず。それを楽しみに待ってたほうがいいですよ。



「ラブ&ピース」「いつも心にシネマと美女、夢とロマン」を信念に生きる新宿タイガーさん。

ずっと朗らかにインタビューを受けてくださいましたが、「続けていたら本物になる」というお話のときは、強い信念のようなものを感じました。

何事も新しいことを始めるのは、批判があるもの。しかも「虎として生きる」という常人の理解の範疇を超えた話ならなおさら。

過去にどんなひどいことがあったのか深くは語られませんでしたが、「新宿タイガー」が街で受け入れられているのは、47年虎として生き続けたからなんですよね。

自分のやりたいことを続けることで、いつかまわりの人に受け入れられる、ということを身をもって示してもらった気がします。


取材後には、ファミリーとともにいつも飲み明かしているゴールデン街に消えていかれたのでした

〈取材・文=楳田佳香(@tominokoji)/撮影・編集=福田啄也(@fkd1111)〉

新宿タイガーのドキュメンタリー映画が公開中

新宿タイガーの生活に密着したドキュメンタリー映画が公開中。

新聞販売店やゴールデン街の店主たちなど、タイガーさんのまわりにいるさまざまな人へのインタビューを通じ、虎のお面の裏に隠された彼の意図と、一つのことを貫き通すことの素晴らしさ、そして新宿の街が担ってきた重要な役割に迫ります。

ドキュメンタリー映画「新宿タイガー」監督・撮影・編集:佐藤慶紀 出演:寺島しのぶ(ナレーション)八嶋智人 渋川清彦 睡蓮
http://shinjuku-tiger.com/

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