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欧州最強ドイツ銀行が消滅危機にある理由

■財務内容が不安定な銀行同士の合併はリスク

3月17日、経営再建中の独最大手ドイツ銀行は、独大手コメルツ銀行との統合交渉を開始すると発表した。2015年後半から、フランクフルトやロンドンの市場参加者の間では両行の合併観測が増えてきた。その意味では、今回の発表に特段の驚きはない。

もともと、ドイツ銀行は“商業銀行”として存在感を発揮してきた。1990年代初頭に冷戦が終結すると、ドイツ銀行を取り巻く環境は大きく変化した。その変化に対応するため、急速に同行は投資銀行業務に経営資源を配分した。それがつまずきの初めとも言われている。

ドイツ銀行(右)とコメルツ銀行の企業ロゴ=2019年1月17日(写真=AFP/時事通信フォト)

そうしたドイツ銀行の過度とも言える投資銀行部門への偏重は、リーマンショックで多額の損失を引き起こした。その後、同行はリストラによって収益を絞り出してはいるものの、今後、いかにして収益力を高め財務内容を改善できるかは不透明だ。

コメルツ銀行に関しても経営不安の見方は根強い。ドイツ銀行とコメルツ銀行、財務内容が不安定な銀行同士の合併が不良債権の処理や自己資本の増強につながるとは考えづらい。仮に経営統合が完了した後も、ドイツ銀行への不安を完全に消し去ることは難しいだろう。

■ドイツ銀行は「欧州最強」の名をほしいままに

かつて、ドイツ銀行は欧州最強の名門銀行だった。設立は1870年。目的は、ドイツ企業の海外進出のサポートだった。第2次世界大戦後も、この役割は重視された。

大戦後、旧西ドイツは急ピッチで資本を蓄積し、工業化を進めることによって復興を果たした。GDP(国内総生産)が増加し資金需要も高まる中、ドイツ銀行は政策的な株式の保有(株式の持ち合い)、融資、監査役の派遣を通して事業会社の経営に大きな影響力を発揮し成長を取り込んだ。

特に、融資からもたらされる利鞘(りざや)の厚さや、ダイムラーなどの政策保有株の価値上昇が、同行の収益力と競争力を大きく押し上げた。この結果、ベルリンの壁が崩壊するまで、ドイツ銀行は「欧州最強の銀行」の名をほしいままにした。

冷戦終結後、ドイツ銀行はグローバル化という環境の劇的変化に直面した。加えて、ドイツ国内では、銀行が事業会社の放漫経営を放置したとの批判が増え始めた。この状況に対応するために、ドイツ銀行は国際業務の強化に取り組んだ。

ドイツ銀行が重視したのは、企業の買収などを手掛ける「投資銀行業務」だった。ドイツ銀行は外部から投資銀行部門を取り込み、その分野での競争力引き上げに注力した。それによって同行は、世界最強の銀行を目指したのである。

■20年前に1.2兆円で全米8位の投資銀行を買収

1998年、同行が当時全米第8位の投資銀行だった「バンカース・トラスト」を買収したのは、その考えを象徴する出来事だった。買収金額は101億ドル(当時の邦貨換算額で1.2兆円)程度に達した。

バンカース・トラスト買収を境に、ドイツ銀行は大きく変わった。商業銀行よりも、投資銀行業務からの収益が大きくなったのである。2008年のリーマンショック発生まで、金融市場参加者は、投資銀行部門で収益を獲得し成長を目指すドイツ銀行の経営に大きな懸念を抱いてはいなかった。

歴史的に、商業銀行が投資銀行を買収して成功したためしはない。その理由の一つは、両者の業務の特性が大きく異なることだ。「水と油を一つの器に入れるようなもの」とよく揶揄されるほどである。

商業銀行は、預金を受け入れ、それを貸し出し、利ザヤを得る。これは、商業銀行の収益源の一つだ。一方、投資銀行は、株式や債券の引き受けによる資金調達や企業のM&Aの仲介を行う。わが国の証券会社はその一例だ。リスク特性(性格)が異なる業務を、一元的に管理するのは難しい。

■リストラ重視のドイツ銀行と米系投資銀行の決定的違い

リーマンショックが発生するまで、ドイツ銀行の投資銀行部門は“強さの証し”だった。一転して、リーマンショックを境に、ドイツ銀行は投資銀行部門への資源配分過多という問題に直面した。ある意味、ドイツ銀行にとって投資銀行部門は、“あばたもえくぼ”から、“あだ花”へ、一変してしまった。

リーマンショック後、ユーロ圏ではECBが金融緩和策を強化し、市中の金利が低下した。加えて、欧州ソブリン危機が発生し、経済が混乱した。これがドイツ銀行の収益減少につながった。起死回生を狙って注力した株式やデリバティブのトレーディング業務も失敗し、損失が累積した。経済の低迷によって保有してきた債権の価値は劣化し、不良債権問題への懸念も高まった。

収益の減少と低迷を受けて、ドイツ銀行は生き残りのために投資銀行部門での人員削減や資産の売却を進めざるを得なくなった。現状、同行がリストラ以外の方策から収益を確保することは難しいだろう。

リストラが続いてきたため、ドイツ銀行は環境の変化に適応することも難しくなっている。すでに米国では投資銀行をはじめ多くの金融機関が、「フィンテック・ビジネス」(デジタルテクノロジーと金融理論を融合したビジネス)に注力し、IT人材の確保などに動いている。これは、人員削減を進めてきたドイツ銀行と実に対照的だ。

■「大きくてつぶせない銀行」の経営問題が深刻化

リストラを続けていくと、最終的には、企業そのものがなくなってしまう。投資銀行部門に経営資源を重点的に配分し、国際業務の強化を推し進めたドイツ銀行の経営戦略は行き詰まっている。

収益以外にも、ドイツ銀行の投資銀行部門には問題が多い。コンプライアンス(法令遵守)体制はかなり不安だ。米司法省は、不正な方法で金融商品を販売したとして、ドイツ銀行に制裁金を科した。これが、業績をさらに悪化させた。同行は、マネーロンダリング(資金洗浄)に関与した疑いもある。これは、ドイツ銀行の社会的責任にかかわる問題だ。

統合相手のコメルツ銀行に関しても、イタリア国債の保有に伴う減損を迫られる可能性がある。コメルツ銀行の収益基盤であるドイツの経済も、想定以上に減速している。

このように考えると、経営不安を抱えた銀行同士の統合は、“大きくてつぶせない”銀行の経営問題を、さらに深刻化させる恐れがある。本来なら、ドイツ銀行は経営体制と財務内容を改善し、その上で他行との経営統合を目指すべきだ。

■経営安定化には政府による公的資金の注入が重要

ただ、欧州の銀行監督行政が、その取り組みを難しくしている。銀行が不良債権を処理し、経営の安定を目指すためには、政府による公的資金の注入が重要だ。欧州委員会は公的資金を用いた救済の前に、銀行の株主や債権者による損失負担を求めている。その理由は、納税者への配慮だ。

本当に救済が必要になったとき、銀行の株主や債権者に損失の負担を求めることはできないだろう。株主などが損失を負担しなければならなくなれば、金融市場は大きく混乱しかねない。

ドイツとしては、事態が一段と悪化する前にドイツ銀行の経営を落ち着かせたい。キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と連立を組む社会民主党(SPD)は、ドイツ銀行とコメルツ銀行を一つにまとめ、さらなる経営の合理化を重視している。SPDは、ドイツ銀行に中小企業向け金融を行わせることも狙っている。それはSPDが金融行政で成果を残し、支持を獲得するために重要だ。

今後の展開を考えた際、ドイツ政府の役割は決定的に重要だ。ドイツとEU各国が、実際に運用可能な銀行の救済方法を確立できるか否かは、今後のドイツ銀行の経営を左右するだろう。それができない場合、ドイツ銀行の経営は一段と不安定化する恐れがある。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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