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中国・習近平の「EU攻略」がイタリアからはじまる深い事情 漢帝国とローマ帝国、それぞれの利害

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中国とどう向き合うか

いまから10年前の2009年7月30日から10月7日まで、北京の中華世紀壇で、「秦漢-ローマ文明展」が開かれた。新中国建国60周年を記念して、中国国家文物局とイタリア文化遺産芸術活動局が共同主催した、大規模かつ内容の濃い展覧会だった。

当時、私は一日かけてこの展覧会を観た。2000年以上も昔に、ユーラシア大陸の東西、直線距離にして8000も離れた西安(長安)とローマが、シルクロードを通じてかくも豊富な交易を行っていたことに、驚きを禁じ得なかった。

例えば、漢の王宮は、当時の自分たちの技術では作れなかったローマ帝国のガラス製品に熱狂する。ワインも同様だった。逆にローマ帝国は、漢帝国から届くシルクや陶器に夢中になった。軍馬や鉄器などの交流によって、互いの軍事力が向上したりもした。

それから2000年の時を経て、現在の中国の「皇帝様」習近平主席が、かつてのローマ帝国の首都に降り立った。3月21日から26日まで、イタリア、モナコ、フランスを公式訪問したのだ。

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2000年前は、ヨーロッパの大半をローマ帝国が支配していたが、現在のヨーロッパを支配しているのは、28ヵ国の共同体・EUである。周知のようにいまEUは問題山積で、その筆頭がイギリスの離脱(Brexit)問題である。

3月21日と22日にブリュッセルで開かれたEU首脳会議は、この問題を巡って、深夜まで紛糾した。3ヵ月後の5月23日から26日に、5年に一度のEU議会選挙を控えていることもあって、各国とも真剣なのだ。

だがEUは、もう一つ、大きな問題を抱えている。それは、中国とどう向き合うかという問題だ。

EUはこれまで、どちらかというと、中国との貿易で儲けようと夢中で、中国国内の人権問題や台湾問題など、面倒なことにはあまり関わってこなかった。「独裁政権の方が安定しているからビジネスにはよい」と断言するEUの大企業の経営者も、少なからずいた。ところが、昨年勃発したアメリカと中国の貿易戦争の激化により、その余波を受け始めているのだ。

EUは、アメリカとNATO(北大西洋条約機構)という軍事同盟を結んで、「共通の敵」ロシアと対峙している。その一方で、ドイツやフランスを始め、少なからぬ国が、最大の貿易相手国は中国である。軍事はアメリカに頼り、経済は中国に頼るという点では、日本を始めとするアジアの国々と同じ立場だ。

そんなEUの苦悩が如実に表れたのが、3月12日に発表した、今後の対中関係について10項目の具体的行動を提案するコミュニケだった。全文は、下記のサイトで入手できる。

http://eumag.jp/news/h031719/

この10項目のコミュニケを読むと、EUのホンネが透けて見える。それは一言で言うと、中国と利害が一致する部分は、中国と組んでアメリカを叩きたい。だが、アメリカと利害が一致するところでは、逆にアメリカと組んで中国を叩きたいということだ。

具体的に前者の部分は、国連を中心とした協調外交の展開、地球温暖化防止を定めたパリ協定の順守、2015年に締結したイラン核合意(JCPOA)の順守、自由貿易とグローバリスムの継続といったことだ。また後者の部分は、中国市場における各種規制の撤廃や知的財産権の保護、中国企業と外資系企業の待遇一致といったことだ。

アメリカを取るか、中国を取るか

そんな中で、喫緊の問題として、EUを悩ませているのが、華為技術(ファーウェイ)問題である。

今年は次世代通信規格「5G」の元年と言われるが、5G技術が世界で最も進んでいて、かつリーズナブルな価格で安定供給できる企業は、中国の華為技術に他ならない。

EUの加盟国としては、ホンネで言えば、華為と二人三脚で、早く5Gを自国に整備したい。だが米ドナルド・トランプ政権は、「華為は中国共産党のスパイ企業」とのレッテルを貼り、「華為外し」に躍起になっている。

2月にはマイク・ペンス副大統領とマイク・ポンペオ国務長官がそれぞれ訪欧し、「EU域内からの華為排除」を声高に訴えて回った。そのため、EU加盟国の悩みは尽きないのである。

例えば、「EUの盟主」ドイツを見ると、3月7日にドイツ政府が、「5Gにおいて華為を排除することはない」と発表した。

すると翌8日には「トランプの友人」リチャード・グラネル駐独アメリカ大使が、ペーター・アルトマイヤー独経済相に、「5G構築に華為を関わらせれば、米独の情報共有を見直す」と警告。13日には米欧州軍のカーチス・スカパロッティ司令官が、「華為を採用すればドイツ軍との通信をストップする」とまで明言した。

アンゲラ・メルケル首相は19日、「わが国は特定の企業を排除しないが、パートナー国(アメリカ)ともよく話し合う」と、米中双方に配慮した発言をしている。実際、19日からドイツ政府は、5Gの周波数帯の入札を始めたが、参加したのは、ドイツテレコム、ボーダフォン、テレフォニカ、ドリリシュの4社で、華為は不参加だった。

だが、ドイツで5G用の通信機器に関して、華為の供給を容認するか否かという問題は、いまだ片づいていない。

この5Gと華為問題に関して、前述のEUコミュニケは、10項目のうちの「行動9」で、次のように記している。

行動9:重要なデジタルインフラに対するセキュリティ上の深刻な影響を防ぐために、第5世代(5G)ネットワークのセキュリティに関するEU共通の取り組みが求められる。着手に向け、欧州委員会は来たる欧州理事会会合(EU首脳会議)の後に勧告を発表する。

ロイター通信は、この勧告は3月26日に発表される予定だと報じている。その内容は、「華為の排除を求めず、各国の国家安全保障上の判断に任せる」というものだという。要はEUが責任を回避して、各国に委ねてしまったということだ。

イタリアからのラブコール

こうした中で、3月21日夕刻、習近平主席がローマのフィウミチーノ空港に降り立った。

翌22日、まずはセルジョ・マッタレッラ大統領との会談を行った。そして23日には、EU首脳会議から戻ったばかりのジュゼッペ・コンテ首相との中伊首脳会談に臨んだ。

冒頭述べたように、2000年前のローマ帝国と漢帝国は「同等」だったが、現在の中国とイタリアでは、圧倒的に中国の方が強大だ。何と言っても中国は、EU28ヵ国の面積と人口の合計を、それぞれ2倍したよりも大きいのだ。

しかも、現在のイタリアの政治と経済は、大変なことになっている。まず政治は、中国で習近平政権が誕生した時(2013年3月)、イタリアはマリオ・モンティ政権だった。だがその後、エンリコ・レッタ政権→マッテオ・レンツィ政権→パオロ・ジェレンティローニ政権→コンテ政権と、目まぐるしいこと、この上ない。

経済については、『ブルームバーグ』(3月4日付)がこう報じている。

〈 ユーロ圏で3番目の規模を持つイタリア経済は2月も製造業の低迷が続いた。景況感指標は前年のリセッション(景気後退)が今年に入っても長引くとの見通しを裏付けている。2桁台で高止まりする失業率と、山と積もった債務の削減に進展が見られない中で、イタリア経済は今年ほぼゼロ付近の成長率にとどまる見通しだ 〉

コンテ首相は、昨夏までフィレンツェ大学法学部の教授だった。昨年3月に行われたイタリア総選挙では、全630議席中、極左の5つ星運動が227議席で第1党、極右の同盟が125議席で第2党になった。そして紆余曲折の末、同年6月になって極左と極右が連立政権を組むという、他国では考えられないような展開になったのだ。

その際、元フリーターで5つ星運動のルイジ・ディマイオ党首(32歳)と、北部の独立を叫んでいた同盟のマッテオ・サルビーニ党首(46歳)が、共に副首相として入閣。水と油の両党の「緩衝材」として真ん中に置いたのが、無名のコンテ教授だったというわけだ。先進国サミット(G7)のメンバーとは思えないハチャメチャな政治で、EUからも愛想を尽かされている。

だが、捨てる神あれば拾う神ありで、そこへやって来たのが中国だった。5月のEU議会選挙を控えて、極左(五つ星運動)も極右(同盟)も、共に「御大尽様」を頼ったのだ。

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コンテ首相は、EU首脳会議に赴く前日の3月20日、中国中央テレビのインタビューを受けて、こう述べている。

「2018年、イタリアと中国の貿易額は、500億ドルを突破した。双方の累計投資額は200億ドルを超えている。中国経済は巨大であり、イタリアから中国への輸出もまた、巨大な潜在力を秘めている。イタリアへの中国人観光客が増加していることも、イタリア製品に対して中国人を惹きつけるのに一役買っている。

両国は今後、農業、持続可能な都市化、航空、交通、インフラ整備など、広範な分野で提携を進めて行ける。わが政権は、何よりも経済発展を重視する政権なのだ」

このインタビューを見ると、コンテ首相の顔には、「チャイナマネー熱烈歓迎」と書いてあるようだ。イタリア人は正直な民族だ。

もう四半世紀近く前のことを、ふと思い出した。私が北京大学に留学中、世界各国から留学生が来ていたが、欧米人は中国の生活に馴染むのに四苦八苦していたものだ。大学の前にマクドナルドの大型店があって、そこに引きこもりのようになっている欧米人留学生も多かった。

そんな中で、唯一の例外がイタリア人だった。なぜかイタリア人だけは、中国が「地上の楽園」のように思えるらしく、夏の卒業式シーズンになると、大学は「イタリア人が帰国しない問題」に頭を悩ますのだ。

ある時、イタリア人留学生の一人に、中国の魅力について聞いたら、目を爛々と輝かせながら答えた。

「中国には、イタリアにあるものがすべて揃っていて、しかもイタリア以上に豊富にある。悠久の歴史、美味な料理、鷹揚な人々……。こんな国は他に見当たらない」

そんなイタリア人の一人が、中国生活10年の経験を活かして、今回の習近平主席訪問の陰の立役者となった。イタリア経済発展省のミケーレ・ジェラーチ副大臣である。

ジェラーチ副大臣の名前は、1月に私が北京に行った時も、現地の外交関係者の間で上がっていて、いわゆるイタリアの「中国迷」(親中派)の筆頭だ。その姿は、4年前にイギリスを半ば強引にAIIBに引き入れたイギリスの「中国迷」、ジョージ・オズボーン財務相と重ねられていた。

「一帯一路」の終着点

そのように中国にラブコールを送ったイタリアだったが、中国もまた、イタリアを必要としていた。

習近平政権は4月下旬に、政権の威信をかけた「第2回『一帯一路』サミットフォーラム」を北京で開催する。

「一帯一路」(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)は、習近平政権が唱える外交戦略で、中国からヨーロッパまでの陸路と海路の経済発展を、中国主導で推し進めるものだ。中国政府の発表によれば、昨年末時点で、122ヵ国と29の国際組織が、計170件の政府間文書に署名している。

だが昨年来、米トランプ政権が「一帯一路は中国のユーラシア大陸への軍事支配だ」と非難していることもあり、このところ逆風が吹いている。来月の北京のフォーラムが、2年前の5月に北京で開いた第1回よりも低調ならば、習近平政権の威信も、内外で地に堕ちることになる。

そんな中、中国にとって、何よりも、先進7ヵ国(アメリカ、カナダ、日本、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア)が「一帯一路」に冷淡なのが問題だった。

これは、2015年末に習政権がAIIB(アジアインフラ投資銀行)を興した時と同じ構図である。当時は、キャメロン政権下のイギリスを味方につけて、そこからフランス、ドイツ、イタリア、カナダをAIIBに引き入れていった。そこで今回も、イタリアを篭絡させることで、「蟻の一穴」を狙ったのである。

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3月23日午前10時、ルネサンス建築の傑作、ローマ西郊のマダマ宮殿(1518年改築)で、習近平主席とコンテ首相の首脳会談は行われた。

習主席は、2階の会見の間に通され、着席するや、上機嫌に口を開いた。

「中国とイタリアは、古代からシルクロードの両端であり、そこに『一帯一路』を拓くのは、『天経地義』(天地間の普遍の定理)というものだ」

2013年秋に習近平主席が「一帯一路」を提唱した時、その終着点をロンドンに定めていた。なぜなら「一帯一路」は、中国の悲願である人民元の国際化と一体になっており、北京-香港-ロンドンという金融ルートを確立したかったためだ。

だがイギリスはいまや、Brexitで大揺れで、中国は今回、「一帯一路の終着点はローマである」と言い出した。この辺りの融通無碍さは、中国外交の真骨頂である。いまや、ユーラシア大陸とは無関係の南米の国々まで「一帯一路の朋友圏」に含めている。

ちなみに、ヨーロッパ地域の国々で、すでに「一帯一路」の協力覚書に締結した国々は、下記の計24ヵ国に上る。中国政府の「一帯一路ネット」には、各国との提携内容も詳述されている。

ポルトガル、マルタ、オーストリア、ギリシャ、ボスニアヘルツェゴビナ、ラトビア、エストニア、スロベニア、リトアニア、クロアチア、チェコ、ベラルーシ、ジョージア、マケドニア、ブルガリア、セルビア、アルメニア、ハンガリー、モルドバ、ポーランド、ルーマニア、スロバキア、ウクライナ、イタリア

https://eng.yidaiyilu.gov.cn/info/iList.jsp?cat_id=10076&cur_page=1

漢帝国とローマ帝国の老獪さ

習近平主席とコンテ首相の首脳会談は、約2時間行われた。その後、両首脳は1階に降りて来て、19件もの提携案件の署名式を行った。そのトップは、「一帯一路」の協力覚書だった。一件一件、イタリア語と中国語で覚書の説明がなされるたびに拍手喝采となり、宮殿の広間によく響き渡った。

前述の中国中央テレビのインタビューで、コンテ首相はこう述べている。

「イタリアと中国は、有名なシルクロードや、イタリア人旅行家のマルコ・ポーロなど、数千年の交流の歴史で結ばれている。いまや中国が、イタリアを終着点とする『一帯一路』という新たなシルクロードを提唱しているのに、どうして参加しないことがあろうか。

『一帯一路』への参加によって、両国の多方面での貿易は伸びていく。かつEUの戦略目標とも合致するし、第三国も受益者となるだろう」

この日、発表された共同声明は、計22項目にわたって、両国の和気藹々とした計画が記されている。両国が全面的戦略的パートナーシップ関係を結んで15年、来年は国交樹立50周年にあたり、「3年行動計画 2021-2023年」を起草するのだという。

いつまで続くか知れないコンテ政権(失礼!)を相手に、何とか持続可能な関係を定着させたいという中国側の意図も、行間から感じ取れる。なお、共同声明の全文は、下記のアドレスで見られる。

https://baijiahao.baidu.com/s?id=1628797017723105758&wfr=spider&for=pc

この署名式の後、習近平主席は、急ごしらえでマダマ宮殿内に作られた「ミニ展覧会」を観覧した。そこには、古代中国の馬家窟文化の赤茶けた土器や漢代の養蚕用の壺、唐代の兵士の俑など、「国宝級」の文物8点が置かれていた。

2007年、イタリア政府は、本国でそれまで押収した窃盗品の中で、中国の文物と思われるものが多数あることを、中国政府に報告した。中国が、1970年から2006年までに、27.7万件もの文物が窃盗に遭ったと発表したことに呼応したものだった。

それから10年以上かけて、両国で合同調査を行った結果、今年初めにイタリアの裁判所が、計796点の文物を中国に返還する決定を下した。そして今回、習近平主席のイタリア訪問に合わせて、そのことが発表されたのだ。

このニュースは、中国で大々的に報じられた。中国にはそもそも、1840年のアヘン戦争以降、欧米列強に蹂躙されたという強いコンプレックスがある。近年でも、例えば中国共産党中央委員会機関紙『人民日報』(2013年2月26日付)は、「流出した国宝がオークションに」という見出しで、こう報じている。

〈 2009年、円明園の宝物である鼠首と兔首の銅像がパリでオークションにかけられたが、最終的に「買い手がつかない」形で落札はならなかった。2012年11月には、円明園の文物である「清嘉慶白玉鏤彫鳳紋長宜子孫牌」と「清乾隆青玉彫仿古獣面紋提梁卣」がイギリスでオークションにかけられたが、外部の圧力によって、ボナムズ・オークションハウスが出品を取り下げた。

同年12月、フランス最大のオークション業者アートキュリアルは、中国側の反対を押し切って清朝乾隆期の玉璽をオークションにかけ、112万ユーロで成約した。なぜこのようなことが繰り返されるのか。単に胸が痛むだけでなく、「文物を持ち主に返す」ことの難しさを考えさせられる 〉

最近は、中国の窃盗文物がオークションにかけられることが発覚するたびに、中国政府が強烈に抗議するということが繰り返されている。そんな中で、今回イタリアは、習近平政権に、協力の意を示したのだから、中国は熱烈歓迎である。イタリアからすれば、中国に「貸し」を作ったとも言える。どちらも漢帝国とローマ帝国の老獪さを引き継いでいる。

習近平主席はその後、マルタ、フランス訪問を行った。

中国の「対EU攻勢」は、4月上旬に李克強首相が参加して行われる中欧首脳会議に引き継がれる。


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