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イチロー引退会見に学ぶ超一流の確固たる心得


イチロー、85分のメッセージを読み解きます(写真:AFP=時事)

「ついにこの日が来たか……」と涙ぐみながら会見を見た人は多かったのではないでしょうか。メジャーリーグ、シアトル・マリナーズのイチロー選手が、東京ドームでの試合後に会見を開き、引退を発表しました。

各メディアでは、「イチロー節が炸裂」などと報じられていますが、約85分間にわたって発した言葉には、超一流のプロフェッショナルであるとともに、グローバルなビジネスパーソンである理由が詰まっていました。

ここでは、ビジネスパーソンのみなさんが学びを得られるであろうフレーズをピックアップし、イチロー選手の放つ言葉の魅力を掘り下げていきます。

「人より頑張ってきたとは言えない」の真意

「いちばん印象に残っているシーンは?」と聞かれたイチロー選手は、「この後、時間がたったら、今日(の試合)がいちばん、真っ先に浮かぶことは間違いないと思います。それを除くとすれば、『今までいろいろな記録に立ち向かってきましたが、そういうものは自分にとってたいしたことではない』というか、それを目指してやってきましたが、『いずれ後輩たちが抜いていくので、それほど大きな意味はない』というか、今日の瞬間を体験すると、すごく小さく見えてしまいます」とコメントしました。

さらに、「引退の決断に後悔や思い残しはない?」と聞かれたイチロー選手は、「今日の球場での出来事……あんなものを見せられたら後悔などあろうはずがありません。もちろん、もっとできたことはあると思いますし、結果を残すために、自分なりに重ねてきたことはありますが、『人よりも頑張ってきた』とはとても言えないし、そんなことはまったくないですけど、『自分なりに頑張ってきた』ということはハッキリ言えるので、『重ねることでしか、後悔を生まないということはできないのではないか』と思います」とコメントしました。

「いずれ後輩が抜く記録はたいしたことではない」「人より頑張ってきたとは言えない」。どちらのコメントも、「イチロー選手がいかに他人と比べず、自分の仕事に集中していたか」を物語っています。

ビジネスパーソンも長年にわたって実績を残すためには、スキルや結果などを同僚や競合他社と比べられるより、自分の仕事に集中させるほうがいいのかもしれません。プロ野球選手は、週間、月間、年間、契約期間平均など、ビジネスパーソン以上に実績をシビアに査定される職業だけに、その言葉の説得力は十分すぎるほどあります。

「進化」「目標」「成功」に関するコメントも、ビジネスパーソンにとって参考になるものがありました。

「生きざまでファンの方に伝えられたことは?」と聞かれたイチロー選手は、「生きざまでというのはよくわかりませんが、“生き方”と考えるならば、あくまで“はかり”は自分の中にあって、『自分なりに“はかり”を使って限界を見ながら、ちょっと超えていく』ということを繰り返していく。そうすると、『いつの日からか、こんな自分になっているんだ』という状態になって。だから少しずつの積み重ねでしか自分を超えていけないと思うんですよね」とコメントしました。

イチローらしい進化のプロセス

さらに、「『一気に高みに行こうとすると、今の自分の状態とギャップがありすぎて続けられない』と僕は考えているので、地道に進むしかない。進むだけではなく、後退もしながら、あるときは後退しかしない時期もあると思いますが、自分が『やる』と決めたことを信じてやっていく。それが正解とは限らないし、間違ったことを続けてしまうこともあるんですけど、『そうやって遠回りすることでしか、本当の自分に出会えない』という気がしています」と穏やかながら熱っぽく語りました。

このコメントから読み取れるのは、前述した「基準は他人ではなく自分の心の中にある」ことに加えて、「自分の限界をちょっと超える」「それを地道に続ける」「後退や遠回りもする」「一気に高みを目指しても継続しない」という進化のプロセス。

コツコツと安打を積み重ねたイチロー選手らしいものであり、“現役生活”という点では、プロ野球選手よりも長いビジネスパーソンにとって、より大切なことではないでしょうか。

次に、「『最低50歳まで現役』と公言していたが、日本に戻ってプレーする選択肢はなかったか?」と聞かれたイチロー選手は、「なかったです。理由はここでは言えないですね。ただ、『最低50歳まで』と本当に思っていました。それはかなわず有言不実行の男になってしまいましたけど、『その表現をしてこなかったら、ここまでできなかったかな』という思いもあります。だから難しいかもしれませんが、『言葉にして表現することは、目標に近づく1つの方法ではないか』と思っています」とコメントしました。

自ら“有言不実行の男”と揶揄しましたが、そうなるリスクを承知で公言していたのでしょう。実績を積み上げるほど、「できなかったときのことを考えて身動きが取れない」「周囲から叱咤激励されにくくなる」ことを踏まえ、周囲を巻き込む形でセルフコーチングしていた様子が伝わってきました。

イチロー選手は「プロで成功したことは?」と聞かれたときも、「『成功かどうか』はよくわからないですし、まったく僕には判断ができません。だから僕は成功という言葉が嫌いなんですけど。『メジャーリーグに挑戦する』ということは大変な勇気だと思いますが、『成功すると思うからやってみたい、それができないと思うから行かない』という判断基準では後悔を生みますし、やってみたいなら挑戦すればいい。そのときにどんな結果が出ようとも後悔はないし、基本的にはやりたいと思ったことに向かっていったほうがいいですよね」とコメントしました。

「成功」という言葉に振り回されなかった

自他で判断基準の分かれがちな“成功”という言葉に振り回されるのではなく、「挑戦するかしないか」「後悔するかしないか」という観点で行動してきたのでしょう。だからイチロー選手は、他者から見た判断基準である地位や名誉よりも、自分の心と向き合うことに徹し、その結果として地位や名誉を得られたのです。

「ファンの存在とは?」と聞かれたイチロー選手は、「何となく日本の方は『表現することが苦手』という印象がありましたが、(今回の2試合で)完全に覆りましたね。内側に持っている熱い思いが確実にあって、それを表現したときの迫力はとても今まで想像できませんでした」とコメントしました。

さらに、「あるときまでは、『自分のためにプレーすることがチームのためになるし、見ている人も喜んでくれる』と思っていましたが、ニューヨーク(ヤンキース)に行ったあとぐらいから、『人に喜んでもらうことがいちばんの喜び』に変わりました。その点で、『ファンの方々の存在なくしては、自分のエネルギーがまったく生まれない』と言っていいと思います」と続けたのです。

2つの共通点は、「あっさりと自分の変化を認めている」こと。イチロー選手は、「野球の求道者」などと言われ、変わらないことを美徳としているように思われがちですが、実際は自分の変化をサラッと認めてしまう人物でした。プロ野球選手に限らず、立場や役職が上の人や、実績を残した人が、このような変化を公言することで、懐の深さを感じさせることができます。

また、「引退して何になるのか?」と聞かれたときも、「そもそも、カタカナのイチローってどうなるのか……“元イチロー”になるのかな。どうしよっか。何になるか……監督は絶対無理っすよ。これは“絶対”がつきます。本当に人望がないので。それくらいの判断能力は備えています」とコメントしました。

「監督は無理」「人望がない」というフレーズに日本中の人々が、「そんなことはない」とツッコミを入れましたが、イチロー選手は「“自分が考える最高の監督像”には遠いからやらない」「監督よりもやりたいことが見つかると思う」と言いたかったのではないでしょうか。ここでも自分の現状や特性をあっさり受け入れ、公言したうえで仕事に臨んでいる様子が伝わってきました。

回答を断っても愛される人柄

ビジネスパーソンは、単に「スキルや実績がある」だけでは、社会的な成功を収めることはできません。「多くの人々がいるから自分のビジネスが成立している」ことからわかるように、愛される人柄も重要なポイントの1つです。

「(新加入の後輩)菊池雄星投手と抱擁の際にどんな会話を交わしたのか?」と聞かれたイチロー選手は、「それはプライベートなので。雄星が伝えることは構いませんが、僕が伝えることではないですね。それはそうでしょう、だって2人の会話だから。しかも、僕から声をかけているわけで、それをここで僕から『こんなことを言いました』と話したらバカですよね。そんな人間は絶対に信頼されないもんね。それはダメです」とコメントしました。

ユーモアを交えつつ、きっぱりと拒否。「2人の会話を他人に口外しない」という基本のマナーを守るとともに、後輩を見る目線が上からではなく、フラットである様子が伝わってきました。

さらに、「キャンプなどでユニークなメッセージのTシャツを着ていたが、何か心情を表していた?」と聞かれたイチロー選手は、「そこを言うと急にやぼったくなるので、言わないほうがいいですね。それは見る側の解釈だから、そう捉えれば捉えることもできるし、全然関係ない可能性もあるし。だってそういうものでしょう」とコメントしました。

こちらも回答をきっぱり断っているのですが、その理由を簡潔に説明することで、記者たちを納得させていました。決して「自分のポリシーを貫く」ということではなく、「そのほうが面白いでしょ」というものであり、だからそれを減らすような質問には答えなかったのです。イチロー選手にしてみれば、「これは答えるレベルの質問ではない」と感じたので、無理につきあおうとせず、簡潔な説明で終わらせたのでしょう。

実際、記者の思い入れがあふれた長い質問に対して、「長い質問に申し訳ないですけど、『ない』ですね」と返すシーンもありました。約80分が過ぎたころ、「今日はとことんおつあいきしようと思っていたんですけど、お腹減ってきちゃった」といたずらっぽく笑いながら話したのも、「これ以上は、あまり答えるべき質問はないだろう」と思ったからではないでしょうか。

愛されるビジネスパーソンの人柄には、さまざまなパターンがありますが、イチロー選手のそれは、率直さ。「あの人に断られても仕方ないかなと思える。憎めない人だなと受け入れたくなる」と感じさせるものが、今回の会見に表れていたのです。

そんなイチロー選手の率直さは、「誤解を恐れずにネガティブな感情も話す」「あまのじゃくと思われても気にしない」ところにも表れていました。

「誤解を恐れない」ポジネガ・ネガポジ変換

「野球が楽しくなる瞬間はあったか?」というポジティブな質問にもかかわらずイチロー選手は、「やはり力以上の評価をされるのは、とても苦しい。もちろんやりがいがあって、達成感を味わうこと、満足感を味わうことはたくさんありました。しかし、『楽しいか』というと、それとは違います」とネガティブなコメントを返しました。

また、「選手生活の中で得られたものは?」というポジティブな質問に対しても、「『まあ、こんなものかな』という感覚ですね。200本(年間安打)をもっと打ちたかったですし、できると思ったし、メジャーに行って1年目にチームは116勝して、次の2年間も93勝して、『勝つのってそんなに難しいことじゃないな』と思っていたんですけど、勝利するのは大変なことです。この感覚を得たのは大きかったかもしれないですね」とネガティブなコメントを返しました。

その一方で、「かつて『孤独感を感じてプレーしている』と言っていたが、ずっとそうだったか?」というネガティブな質問に対しては、「現在それはまったくないですね。アメリカでは、僕は外国人ですから。外国人になったことで人の心をおもんぱかったり、痛みがわかったり、今までなかった自分が現れたんですよね。体験しないと自分の中からは生まれないので、孤独を感じて苦しんだことは多々ありましたが、『この体験は未来の自分にとって大きな支えになるんだよ』と今は思います」とポジティブなコメントを返しました。

まさにポジネガ変換、ネガポジ変換のコメントですが、あまのじゃくというより、「『ただよかった』『ただ悪かった』と簡単に語れるものではないんだよ」と言いたかったのではないでしょうか。

「ポジティブもネガティブも表裏一体であり、それがビジネスの醍醐味」という真理。さらに深読みすれば、「もし今、みなさんにネガティブなことがあったとしても、ポジティブなことも得られるはずなので、ともに頑張っていきましょう」とエールを送っているようにも感じたのです。

ビジネスの大半は団体競技であり個人競技

最後に、ぜひ紹介しておきたい名言を2つ挙げておきましょう。

イチロー選手は、「苦しい時間を過ごしてきて、『将来は、また楽しい野球をやりたいな』と思うようになりました。これは皮肉なもので、『プロ野球選手になりたい』という夢がかなったあとに、あるときから、またそうではない野球を夢見ている自分が存在しました」「『プロ野球でそれなりに苦しんだ人間でないと、草野球を楽しむことはできない』と思っていたので、これからはそんな野球をやってみたいと思います」と語っていました。

「夢がかなうと、別の夢を見たくなるのが人間の性(さが)」「その新たな夢は、目の前のことに向き合わなければ実現しない」という意味では、ほかのビジネスシーンも同じ。例えば、知人の出版社営業マンは、夢だった編集部への異動を実現させたあと、「今になって営業のやりがいや面白さがわかった」「自分がやりたかったのは営業のような気がしてきた」という気持ちになったそうです。もしかしたらイチロー選手は、夢の大切さだけでなく、それにこだわり続けることの無用さを言いたかったのではないでしょうか。

もう1つの名言は、「野球の魅力はどんなところか」と聞かれたときの「団体競技なんですけど、個人競技だというところ。『チームが勝てばそれでいいか』というと、全然そんなことはないですよね。個人としても結果を残さないと生きていくことができません。その厳しさが魅力であることは間違いないかなと」というコメント。

「団体競技であり、個人競技」という点は、みなさんの所属する組織にも通じるところはないでしょうか。イチロー選手のコメントは、ハラスメントを避けるべく個人指導を減らす風潮が広がる中、「組織の一員だからといって、個人で結果を出すことを後回しにしてはいけない」「仕事では厳しいからこそ得られるものがある」というメッセージに見えたのです。

イチロー選手は会見で、「僕から(みなさんへ)のギフトなんかないです」と話していましたが、試合後の深夜0時すぎにもかかわらず、これだけ含蓄のある言葉を贈ってくれました。「僕はゆっくりする気はないです」とも語っていただけに、これからも立場こそ変われど、私たちにさまざまな気づきや学びを与えてくれるでしょう。

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