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3月末で閉店する神保町の老舗マンガ専門店「コミック高岡」が″オタクの聖地″と呼ばれた理由

3月31日で閉店してしまう、神保町の有名コミック専門書店「コミック高岡」

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靖国通り沿いにある黄色い外観と手書き風の看板。神保町の有名書店のひとつだった「コミック高岡」

2月中旬、東京・神保町にあるマンガ専門店「コミック高岡」が3月31日をもって閉店するとの情報がネット上に流れ、話題となった。

「コミック高岡」といえば、前身である「高岡書店」から数えると、100年以上の歴史のある老舗書店。70年代にマンガ専門店の先駆けとしてオープンし、そのマニアックな品揃えから「オタクの聖地」として漫画ファンから愛され続けてきた名店だ。

その「聖地」がなくなる! そこで閉店間近の3月中旬、「コミック高岡」を直撃。85年頃より店頭に立ち、約35年にわたり仕入れを担当してきた店長・市川祐治さんに、閉店に至った経緯と、聖地ならではのエピソードを聞いた。

――「オタクの聖地」として名高い老舗書店が閉店。驚きました。

「閉店することは昨年の秋頃から社長と話し合っていたんです。10年以上に及ぶ出版不況もあり、ウチも売り上げが下がるばかり。5年前くらいからかなり深刻なレベルにきちゃって」

――電子書籍が浸透したからでは?なんて声もありますね。

「それも影響あるのかな。あと、うちの社長が75歳と高齢なんですが、後継者がいないという事情もあって。一方で神保町の地価は上がるばかりなんで、ここらが潮時かなと。僕らとしてもすごく残念ではあるんですけどね」

――高岡さんは100年以上の歴史があったそうですね。

「オープンがいつか、正確にはわからないんだけどそうみたい。でも書店としては70年ですね。先代の社長の頃は参考書とか置いてたみたいです。理由は定かではないんですが、1970年代にコミック専門店になりました」

――市川さんは35年以上お店で働いているそうですね。一番、印象に残っている作品は?

「森山塔先生の『よい子の性教育』(1985年)ですね」

――山本直樹先生が別名で描いた成年コミックですね。アニメタッチの絵と過激な描写で話題になりました。

「そう。あれが出たのは、僕がバイトとして勤め出した頃なんですけど、お店に来る人が全員買っていくんです。信じられなかったですよ。当時、1日1700冊売りました。まぁ、当時は成年コミック自体、売ってるお店が限られているせいもあったんだろうけど」

――いや、それでも1日1700冊はすごすぎる! 他には?

「うーん。いっぱいありすぎて思いつかない(笑)。そうだなあ。『ファイブスター物語』(1987年)も、最初の三日くらい、1日1000冊は売ってたけど」

――永野護先生のSFファンタジーコミックですね。最近の話題作で言えば諫山創先生の『進撃の巨人』(2009年〜)はどうでした?

「めちゃくちゃ売れました。あれは最初に見た瞬間から売れると思いましたね。僕は、マンガ業界で一番最初に『進撃の巨人』のすごさをツイッターに書いたんです。いまだにマンガ誌の編集長何人かから言われます」

――それはすごい! 一体、何がひっかかったんですか?

「作品の世界観です。巨人と人間との戦いに、当時、脅威となっていた中国と日本との関係が重なったんです。あと本編に漂う閉塞感も当時の日本にあったし、これはみんな共感するだろうなと。  

あと、今思い出しましたが、島本和彦先生の『燃えよペン』(1990年)も売れましたね。最初はマンガ誌の増刊号として出たんですが、お店では30冊しか仕入れる予定がなかったんです。でも最高に面白かったから、僕が300冊入れましょう!って上に提案し、実際に仕入れたら即完売。それどころか、すぐに1000冊売りました。その実績で僕はバイトから社員になりました(笑)」

――市川さんが仕入れる基準のようなものはあるんですか? 例えば絵とか物語とか。

「はっきりしたものはないですね。長年の経験と勘としか言いようがない。強いて言えば時代の空気に合った作品を選ぶということでしょうか。もちろん絵と物語にギャップのある作品は売れる傾向にあるとか、ある程度の判断基準はいくつかありますけど」

――コミック高岡さんの常連さんには、諸星大二郎先生や星野之宣先生のような通好みのSF作品が好きな人も多いそうですね。

「そのおふたりの作品はウチでは定番商品で、40年間、毎日一冊は売れるんです。今回、閉店を知って久々にいらっしゃったお客さんの中にもおふたりの作品を買っていく人もいます」

――それはなんでですかね。

「やっぱり神保町にあることが大きかったのかもしれません。書店街ということで知的好奇心の豊かなお客さんが多かったというか。要はいいお客さんばかりなんです。時々お客さんと話しますけど、マンガやアニメだけでなく映画や音楽とかいろんなことに詳しい。僕が教えてもらうこともあります(笑)。それだけに諸星先生や星野先生のような、本格的なストーリーテラーの作品が売れたのかもしれません」


店長の市川祐治さん

――逆に、いいお客さんだから自然と、仕入れる本の選択もただの売れ筋だけじゃなく、通好みなものになっていくというか。

「それはありますね。あと集英社さんとか小学館さんとかが神保町にあって、出版社のお客さんが多いのも僕らにとっては刺激になりました。うかつなものは出せない(笑)。お店では平積みにするマンガを毎日変えるんですけど、相当、考えるし」

――これは聞き辛いんですが......。90年代前半、コミックの性的表現が過激化して、有害コミック騒動(マンガの性的表現の是非が国会で議論されたり、性的なマンガが発禁処分を受けたり大騒動となった)が起きました。コミック高岡さんもダメージを受けたと思うんですが、当時の状況をどんな風にご覧なっていたんでしょうか?

「表現がエスカレートしたのは確かだと思いますけど、いろんな情報が錯綜して、正直なところ何が正しいかよくわからなかったですね。ウチは一度、処分を受け、今で言う成年コミックは7年間くらい店頭に置くのをやめました。それはやはり残念でしたね」

――なるほど。あと「オタクの聖地」といえば、よく店頭で、本やカバーの折れや汚れなど、隅から隅まで細かくチェックしてるオタクのお客さんが時折いますよね。内容は同じなんだからさっさと買えばいいのになんて思っちゃうんですが、どうなんですか?

「いや、お客さんが満足してくれるなら別に問題ないです。中にはチェックしたいから、店に出す前のものを全部見せてくれっていう人もいました。それにそんな風に納得してから買うのはネットではできませんしね」

――あくまでお客さんファーストだと。あとコミック高岡さんはシュリンク(ビニール包装)してないですよね。そのせいか、立ち読みする人も時折見かけました。

「それも問題ないです。立ち読みして気に入ったら買ってくれる、それでいいと思っていましたし」

――でも一回読んだら、もういいってならないですかね?

「一回立ち読みされたくらいで売れないなら、それはマンガがダメなんです。だってそうでしょ。本当に気に入ったマンガって、その後、何十回も読むわけじゃないですか。立ち読みしても、また買って読みたくなるのが名作なんです。うちはいいお客さんが多いし、店頭でしっかり品定めしてもらえばいいなって。僕らはそんなお客さんが納得してもらえるマンガを置いてきたつもりです」

――それにしても、そんな目利きのいるコミック高岡さんが閉店するのはつくづく勿体無い気がします。

「ありがとうございます。でも今はツイッターもあるし、いろんな情報がたくさんある。いいかげんな情報もたくさんありますけど、選ぶきっかけはたくさんありますからね。好きなマンガを自分で選んで読めばいいんです。マンガは手軽に読めて、好きになれば20年も30年も楽しめる。まだ読んでいない名作はきっとあるはず。探し出してもっと楽しんで欲しいです」

取材・文/大野智己

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