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健康論に振り回される人を襲う「不幸な悩み」


死を恐れて健康ばかりを気にするより、日々を楽しく過ごすことが心の健康に繋がる(写真:IYO/PIXTA)

メディアが体にいいと取り上げるたびに、いろんな食品が店の棚から消える日本。嗜好品の摂取を控えるのはもちろん、マイクロ波を避けるために電子レンジを使わない人もいる。「そういうことよりも重要なのは心の健康」。人生経験、話術、漢方薬で患者の心を元気にする、イグ・ノーベル賞受賞の英オックスフォード大学・新見正則医学博士による健康論『健康マニア、何が楽しい 体にいいことばかりやってて疲れない?』。

不安がなくなると医療が正常化する

──「メメント・モリ(死を思え)」と言われている感じです。

ベースにあるのは、「どうせ人は死ぬから、それまで楽しく生きればいい」。それが長生きとトレードオフになるのはおかしいので、運動でも酒でもリスクを知って対処すればいいと思っています。

──患者に「死ねば治る!」(笑)。昔からそうだったんですか。

外科医だった頃は、1日でも長生きさせるのが仕事だと思っていた。きっかけはセカンドオピニオン。1998年にイギリス留学から帰ると、日本はセカンドオピニオンなんてとんでもないって雰囲気。ゼロからつくるのが好きなので、喜んでやらせてもらいました(笑)。全国から病気の治らない方が来て、話を1時間聞く。「こんなことで悩んでいるんだ」というのが集積されて今に至っています。10人中9人は適切な治療を受けているのに、本人は不安。「正しいんだよ」と言ってあげるだけで、不安がなくなって、医療が正常化していく。

──不幸な悩みは誤った健康情報からくることもある?

ある。「寝ないとがんになるらしいから寝たいんだけど、寝ても寝た気がしない」とかね。「50歳を超えたら寝た気はしないよ」と言ってあげると安心します。健康情報が氾濫していて、それで不健康になるなんて本末転倒。公共放送も含めて、メディアはある健康法に「悪い」というエビデンス(証拠)がなければ平気で流すから、みんなが右往左往する。こんなのが効くこともあるらしいですよ、くらいにしてくれればいいのに。

──メディアの責任は大きい?

大きいね。エビデンスの有無さえ明らかにしてくれれば、何を言ってもいいんです。「説得力は乏しいけど、いいと思ってやっている人が多い」とかね。有酸素運動をしろとか、体を冷やすなとか、安くて副作用がない健康法なら、お金が絡まないのでエビデンスは不要です。逆に、高くて危険な治療はエビデンスが必要。そこがごっちゃになって流通している。

──例えば、不眠自体は問題がないのに、誤った情報で患者が生まれている?

一部は正しい。不眠で病気になる人はほんの少しですがいますから。悲しいかな、われわれの資本主義社会は、具合の悪い人が1人いればその裾野を広げることで儲けられる。患者には、眠れないと死ぬって思って薬を飲んでいるならやめろと言っていますが、ほとんどの医者は製薬会社の言うことをそのまま受け入れていて、そこにお金が動いているという認識もないと思う。

自分が楽しいことをするのが心の健康に

──健康情報を取捨選択しない側にも問題はありますね。


新見 正則(にいみ まさのり)/1959年生まれ。慶応大学医学部卒業、移植免疫学でDoctor of Philosophy取得。2013年にイグ・ノーベル賞受賞。現帝京大学医学部外科准教授、愛誠病院漢方外来統括医師。医療と健康の「プラットフォーム屋」としても活動。著書多数(撮影:今井康一)

外来で診てると、死んでもいいから健康でいたいって感じの人はいます(笑)。リスク評価をしていないんです。交通事故で年に約3500人が死んでいて、そのリスクを引き受けて外出している反面、これは体に悪い、あれも体に悪いなんてやっているのは変だな。

──アンチテーゼが、「どうせ死ぬんだから、それまで楽しく」。

大切なのは心の健康。必ず死ぬということを認識し、自分が楽しいことを、リスクを承知してやるのが、心の健康につながる。危険なことのほうが楽しいでしょ、冬山に登るとか。僕はトライアスロンをやるけど、海で溺れたり、自転車で骨折したりとかなり危ない。でもやる。お酒だってたばこだってそうですよね。人はリスクのあることにわくわくするんですよ。

──患者に「死」はタブーでは?

そこは、話し方です。「あんた、いつ死んでもおかしくないよ」って言えばびっくりするけど、その後に「少し前に母が死んで、次は俺の番なんだ」と続けると「あ、おまえも死ぬ番か」って感じになり、何も言いませんよ。30年前の僕には言えません、僕の番はまだ先だったから。

──みんな死ぬんだってわかる。

そう。「今晩死ぬかもしれないから、おいしいもの食べて帰りなさい」って言うと、「力もらいました」なんて言って帰るよね。吹っ切れる人が多いです。同じだって、共感できるのです。依存性のある睡眠薬の減薬も、昔は「悪いからやめろ」と言っていたけど、それじゃあ共感しない。「ずっと飲むとご利益が減る。そうなると困るでしょ」と言うと控える。

──治らない場合は、症状と付き合うことを告げるのも大事?

そのほうが患者に響く。半分は薬で楽にしよう、半分は自分で治そうね、もしくは死ぬまで治らないよ、と言っています。半分楽になるということで、患者もいろいろと受け入れられるようになる。

「おかげさまで」と言えれば心は健康

──漢方薬も使いますね。

西洋医療で治せない患者に「治せ」と言われ(笑)、漢方の勉強をしました。漢方は10人飲んだら3人効くと思えばいい。ある処方が効かなければ別の処方、ダメならまた別の処方。5つも出せば効くでしょう。

──道具としての漢方に人生経験と話術で患者の心が元気になる。


『健康マニア、何が楽しい 体にいいことばかりやってて疲れない?』(新見正則 著/集英社/1300円+税/222ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。

それと優しさかな。「死ねば治る」に「死ぬまで頑張る」と答えられる人のほうが、あれこれ健康法を考えている人より長生きしていると思う。もちろん健康マニアでも、テレビを見て「またくだらねえことやってんな、この健康法は30点!」って言えるなら心は健康です。1つの指標は「おかげさまで」。症状がよくならなくても「おかげさまで変わりありません」と「まだ治らない」では心の状態が全然違う。医者としてはいかに「おかげさまで」を引き出せるかです。

──そんな医者ばかりでは……。

若い医者は死がわからないので、目の前の病気を治すことを考えちゃう。だから、かかりつけ医にするなら人生相談も可能な年配の医者がいいと思う。患者にその時がきたら、「お迎えがきた」と家族に伝えられる医者。「送ってあげなさい」って。つまり、点滴とか延命措置を何もしない。それでも、最後まで手を尽くすことを選ぶ家族もいるでしょうが、送ってあげればと言われただけで精神的に楽になります。

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