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28歳の妻を絶望させた夫の「異常」なゲーム依存


1日中ゲームにはまっていたネトゲ廃人の元夫とのむなしい結婚生活を語ってくれた(筆者撮影)

単純計算すると3組に1組の夫婦が離婚している日本。そこに至るまでの理由は多種多様だ。そもそも1組の男女が、どこでどうすれ違い、別れを選んだのか。それを選択した一人ひとりの人生をピックアップする本連載の第9回。

夫とは、2ちゃんねるのオフ会で知り合った

「離婚の原因は、夫のネットゲームです。夫はFF11 (ファイナルファンタジーイレブン)のネトゲ廃人だったんです。FFで知り合って結婚したカップルを何組も知っていますが、離婚したのは私くらいかなぁ」

そう言って鈴木由美さん(仮名・35歳)はガクリと肩を落とした。

由美さんは、9歳年上の信田良一さん(仮名・当時28歳)と19歳で結婚し、28歳で離婚した。

由美さんが19歳だった当時は、ネット黎明期で、まだネット人口は少なかった。


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ネットをさまよううちに、由美さんは、すぐに巨大掲示板の2ちゃんねるに夢中になった。当時は、オフ板にスレッドが乱立し、オフ会が頻繁に開催されていた。2ちゃんねるでは、女性の書き込みはまだ珍しかったこともあり、今でいう、「オタサー(オタクサークル)の姫状態」を味わえた。由美さんは、楽しくなり、毎晩のように、2ちゃんねるのオフ会に参加した。 

「当時は、特にオフ関係の板をよくウォッチしてました。その中でも、突発オフのスレは活気があって、『今から来られますか?』『とりあえず暇なやつ、今から集まろうぜ!』というノリでバンバン人が集まるんです。ルックスはオタク的な人が多いんですが、若者から中年まで、いろいろな人に会える。

『女です』と書き込むと、人がぶわっと群がるんですよ。元旦那さんは、コテハン(固定ハンドルネーム)をやっていたので、オフ会で会った後にスレで見つけてチャットをして、仲良くなっていったんです」

当時1人暮らしだった由美さんが、印刷会社の正社員だった良一さんのアパートに転がり込む形で同棲生活が始まった。

良一さんが以前からFF11にハマっていることを、本人の口から聞かされていた。しかし、異常なほどにのめり込んでいたことを由美さんが知るのは、同棲し始めてからだった。

FF11はスクウェア・エニックス初の本格的なオンラインゲームだ。2002年にサービスが開始され、過去にはプレイステーション2やXbox 360でもプレイできたが、現在はパソコンのみとなっている。

夫はネトゲ廃人だった

最初は、由美さんも興味本位で一緒にゲームをやっていたこともある。

「普通はカップルでゲームを一緒にやる場合は、レベルの高い人が低い人に合わせてやるんです。でも、元夫は異様なスパルタ教育だったんですよ。百戦錬磨の元夫に合わせて、テクニカルな動きをしなきゃいけないんです。

ABCの順番にコマンドを入力して、タイミングが合うと大技が出るんですが、それを失敗すると夫に『お前何やったんだ! なんでこんなこともできないんだ!』とめちゃめちゃ怒られるんです。すいません……と謝りどおしで、ゲームをやるのがだんだんつらくなってきました」

ゲームは移動が多く、街から街へ移動しなければならない。サクサクサクという移動の足音だけが部屋中に夜通し響いていた。良一さんは仮眠を取りながら夜通しゲームを続けていたが、その足音を聞いているだけで由美さんは睡魔に襲われてしまう。一緒にやるのは無理だと諦めた。

休日は、朝から晩までパソコンの前からほとんど動こうとはしなかった。誰よりも早く起き出し、リビングにあるパソコンの電源に手を伸ばし、あぐらをかいて、定位置を陣取った。

「朝起きると、まずは私が夫にコーヒーを配膳しなきゃいけないんです。そして、『今日はどこにいくの?』と聞くんです。普通は外出の話だと思いますよね? ゲームの中の話なんです。ゲームの中で、今日はどこに行くのかを尋ねるんです。

そしたら、返事が返ってくる。だから、デートらしいデートは1回もありませんでした。ずっとゲームして、寝て起きて、ご飯食べて、仕事に行くと言う日常の繰り返し。私は何のためにここにいるんだろうと思うようになっていきましたね」

昼ごはんの時間がきても、良一さんはパソコンの前から動こうとはしない。レベルを上げるために、武器を買ったり、道具を買ったりしなくてはいけないので、ゲームの中でお金をためる必要があり、片時も目を離すことができないからだ。

「モンスターを狩ったり、買った武器をいくつか合わせて、合成を繰り返したりするとキャラが強くなる。ゲーム内の街の探索をしてボスの討伐に行って、仲間を作る。

その繰り返しなので、滞在時間が半端ないんですよ。当時は課金要素がまったくなかったので、ゲームをしまくっていないと、レアアイテムも取れないし、『つねにゲームの中にいる必要があるんだ』と力説されましたね。元夫にとって居住空間は、完全にゲームの中なんですよ」

同棲を始めた頃に、ゲームの追加ディスクが発売されたこともあり、良一さんはますますゲームにのめり込んでいく。女性になりすますことで、レアアイテムを次々に貢がれると、パソコン画面に目を輝かせた。そんな良一さんに、由美さんは次第に絶望を深めていった。

子どもが産まれてもゲームへの熱は変わらず

妊娠が発覚したのは、同棲し始めて9カ月後だった。そのまま流れで結婚することになった。

子どもができたら、父親としての自覚も芽生えて、そんな生活も変わるのでは、と由美さんは期待していた。しかし、出産後、その淡い期待は打ち砕かれた。

「子どもが産まれても、驚くほどに興味を示してくれなかったんです。元夫は、子どもを珍しい動物みたいに扱ってました。子どもをつついたりして遊ぶという程度のことしかできないんですよ。

子どもが『パパ〜!』と飛びついても、『今忙しいから! 今忙しいから!』と言ってゲームから目を離さないんです。そのうち、『パパは今ゲームしてるから、そっとしておいてあげて』と私も制するようになっていきました」

1日中パソコンの前に陣取ってうつろな目をしている良一さんに「ゲームやりすぎじゃない?」と何度も由美さんは訴えた。しかし、良一さんはその度に激怒し、「じゃあ、ほかに何をしろっていうんだ!」と怒鳴り散らした。

「元夫の言い分としては、『月に4000円くらいで、いくらでも時間が潰せるんだからいいじゃないか』『これ以上ないエンターテインメントなんだから、それを取り上げられたら、ほかでどれだけお金使うかわからないぞ』と。それもそうかなと、無理やり自分を納得させていました」

良一さんの年収は350万〜400万円程度で、生活はギリギリだった。子どもがまだ小さいこともあり、由美さんはすぐに働くのは難しかったため、良一さんの趣味をしぶしぶ我慢することにした。

「でもせめて、ご飯を食べているときはゲームを止めてほしい。そして、休日は昼間に近所でいいから一緒に出かけたい」。そう由美さんが懇願すると、良一さんはしぶしぶそれを受け入れた。

しかし、1カ月も経つとその約束はあっけなく破られていく。

「ゲームの中の裏ボスを討伐するという大きなイベントがあるので、『俺もどうしても討伐に行きたい』って言うんです。『行かないと友達がいなくなってしまう』と涙目で訴えてくるんですよ。『だから外出は、無理だ』と。結局、休日も裏ボスの討伐のために家にいることが多くなり、外出することはめっきり少なくなってしまいました」

由美さんは、休日になると、夫を家に残して、子どもを連れて近所の公園に行った。休日の公園は、ファミリー連れでにぎわっている。夫はいるのに、なぜ自分は1人で子どもを遊ばせなくてはならないのか。切なくて胸が締めつけられた。家に帰ると、まだ夫はパソコンの前にいて、無言で昼食を配膳しなければならない。箸を握りながらも、その目は画面から離れることはない。むなしい、と思った。

リアルより多いチャットの会話

そんな由美さんの気持ちとは裏腹に、良一さんのネットゲームへの入れ込み方は、子どもが成長するにつれて、収まるどころか、ますます加速していく。

「ステージのレベルが高くなるにしたがって、夫のゲームの拘束時間がどんどん長くなっていきました。モンスターが8時間後とか5時間後に出現するから、『その前にレベル上げようぜ』となるんです。アイテムがないとゲームに参加できなくて、それを取るのに4〜5時間を費やす。リアルの時間がどんどん削られていく。今思うと、完全に廃人でしたね」

あまりの入れ込みように、もうこれは、労働のようだと思った。「1日8時間ゲームって、労働だよね?」と良一さんに聞いたら、「本当だね」とコントローラーを片手に、返事が返ってきた。夫とリアルで話すよりも、ゲームの中でチャットしている時間のほうが圧倒的に長いという事実に気づき、由美さんはあぜんとした。

「お風呂に入っている間もずっとゲームにインしたままなんです。仲間とのチャットでは、『風呂離席します』といって退席するんですが、風呂から上がると、『戻りました』と言って、また再開する。

チャットは、たびたび注意はしていたんですよ。どこで何々が出たとか、新しいレアアイテムがすごいとか、ゲームの中でうれしそうにしゃべってる。私とは、ほとんど会話なんてしないのに。毎日が寂しくて苦しかった。全部ゲームのトレンドの話で、私と子どもは置いてきぼりなんです」

あまりにも毎日が空虚で、由美さんは、子どもを膝の上にのせながらSNSで夫の不満をつづるようになる。そして、趣味の編み物に没頭するようになっていった。気がついたら、部屋中が毛糸であふれていた。由美さんは寂しさのあまり、一種の買い物依存に陥っていたのだ。そうしている瞬間だけが、つらい現実から逃れられた。

「なんでこんな結婚をしてしまったんだろう」。後悔しかなかった。

由美さんは、手に職をつけるために、第1子が1歳半になると、本格的に仕事を探し始めた。そして、映像制作会社の広報職に正社員として採用される。しかし、そこはブラック企業で、上司の激しいパワハラに遭ってしまう。打ちのめされる由美さんに対して、良一さんはうわの空で、親身になることはなかった。

「元夫からは最後まで、『大丈夫なの?』とか、私をいたわる言葉が出てくることはありませんでした。それどころが、逆に会社を辞めたことで口論になりました。同棲しているときから、夫とすれ違っていたのは自覚していたんですが、最終的に言いくるめられていました。それまでは、夫に依存することしかできなかったので、関係を見直す話ができなかったんです。だけどこの1件で、もう無理だと思いました」

離婚を突きつけると、良一さんはとたんに弱気になり、「子どもがいるから別れたくない」と泣きついてきた。しかし、由美さんは、最終的に荷物をまとめて、子どもとともに出ていくことにした。その様子を見た良一さんが最終的に根負けする形で、離婚が成立した。その後、良一さんから、子どもの養育費はまったく払われていない。

離婚後、由美さんは別の会社で正社員として働きながら、おっとりとした性格の男性と再婚し、幸せに暮らしている。

「子どもの面会で、たまに元夫と会うんですが、以前とまったく変わってないんです。精神的に幼くて、大きな子どものままでしたね。今もゲームを続けているのかは聞いていませんが、私は離婚して本当によかったと思っています」

ちなみに、今の夫は、ネットゲームとはまったく無縁のタイプなのだという。

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