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上沼恵美子M-1騒動 問題の本質は「女帝を怒らせたこと」じゃありません!

 いや悔しいです。何が悔しいって、あのM-1の騒動です。まーもー説明する必要もないでしょうが、前年覇者であるとろサーモン久保田と、今年本戦7位だったスーパーマラドーナ武智がM-1終了後に居酒屋で突如はじめたインスタライブ。上沼恵美子(とは言ってないけど明らかに)の審査に対する批判を「オバハン」「更年期障害」と女性蔑視、年齢差別とも取れる言葉で繰り広げ、そこからの展開は言わずもがなです。はらたいら先生が聞いたら泣きますよ。あんなに必死に「男性にも更年期があり、なんなら男性の方が長引く可能性もある」と自らの体験を踏まえて訴えてきたのに、あんたらぜんぜん他人事じゃないよ。あと一般的に女性は閉経前後の数年が更年期のピークと言われており、女63歳なんてマジで無敵以外の何者でもない。『婦人公論』を読めばわかります。

【写真】姉とコンビを組んでいた若いころの上沼恵美子


今年63歳になった上沼恵美子 ©文藝春秋

 ……という話がしたいわけではもちろんなく、インスタライブでの発言云々より、その後の芸人界および報道の質感にめちゃめちゃ違和感があるのですよ。「関西の女帝を怒らせた!!」「干されるぞ! 最悪引退か!」とマスコミは色めき立ち、先輩芸人たちは一斉に件の騒動に対してコメント発射。同じ審査員席に座ったオール巨人は「僕として、触れない訳にはいかないので、…ですが、ここでどうのこうの、書けないし 書きませんが、しっかりした大人に成れって伝えました!」とブログで発信、M-1司会者である今田耕司はイベントの席で「今から久保田の悪口を、上沼さんの分も言おうと。本当にあの男だけは……」と主催者の制止を振り切りながら訴え、博多大吉は「僕史上、最大級の雷を落としますよ」、南キャン山里は「久保田、武智、SNS講習で習ったろ? 『飲んだらやるな。やるなら飲むな』って」……etc。それぞれの芸人が「お怒り」という形で今回の騒動を諌めようと躍起になっていました。

誰も問題の根本には触れてない

 なんでしょう、この荒れ狂う海に対して為す術もない人間たちがひたすら祈り踊り供物を捧げるみたいな絵面は。そもそも上沼恵美子自身が怒ってるのかもよくわからないのに。そしてよくよく読めば「この俺が怒っておくんで勘弁してください」とか「酔ってSNSするなとあれほど」とか、久保田・武智サイドの発言ばかりで、誰も問題の根本には一切触れてないんですよね。「更年期障害」の「オバハン」が「自分の好き嫌いだけで審査している」ということに対する、反論も是非も是正も、誰も言ってはいないのです。まるで「女帝を怒らせた」ということこそが、この騒動のキモであると言わんばかりに。

さんまをバッサリやった恵美子の凄み

 そして私は思い出したのです。2016年6月に放送された『さんまのまんま』にゲストとして登場した上沼恵美子を。前回の共演は22年前、その長すぎる沈黙に「さんまと上沼恵美子は犬猿の仲」との噂まで立っていた中での出演でした。「電撃和解か」と書かれた『週刊文春』を片手に乗り込み「生放送だというので来ました」「そうじゃなければ都合よく編集されるかもしれないし」と先制パンチ。「いやいや姉さんは色気ありますよ、抱けと言われたら今晩でも抱きますよ」と、なんかあるとす〜ぐ容姿の話で笑い取りたがるさんまの十八番を、うっすら微笑みながら「ごめんね……」そして急に真顔で「私が嫌やわ」とバッサリ。十八番を9と9にバッサリ。ああ最高、最高だよ恵美子……。

 土曜日の半ドン終わるや否やジョイナーばりのダッシュで家に帰りテレビにかじりついて見た『バラエティ生活笑百科』。あの誰だかよく知らないけどキレッキレの女の人。自宅は大阪城で、淡路島所有してて、金閣寺買った時のポイントで家電全般揃えてる女の人。海原千里・万里のころの映像を今見てもそのスピードとテンポとワードセンスに「このとき10代……?」と唖然とする、そんな天才漫才師が、自分の才能に執着ないのかあっさり結婚して引退して、そして「未婚」「ブス」という女芸人の自虐ネタなんぞどこ吹く風で復帰して、夫に気を使い仕事をセーブするもでもどうしようもなくおもしろいから冠番組いくつも抱えちゃってすげえ視聴率叩き出して、夫に尽くし子ども巣立たせ更年期乗り越え経血出し切って、まさに上沼恵美子!! はあ息継ぎしよ。

「おもしろい」という才能一つで

 この一連の騒動と報道を読み聞きした(主に関東以北の)一般視聴者たちはおそらくこう思うでしょう。「なんだかよくわからん関西で権力のあるオバハンを怒らせてしまったんだな」と。上沼恵美子を「女帝」と崇めることで、かえって問題の中身をぼやかしている。だから悔しいんです。あのとき誰だか知らんけどめっちゃおもしろくてかっこいいキレッキレの主婦が見たくてジョイナーばりのダッシュで帰った小学生の私に申し訳ない。容姿とか年齢とか未婚だとか既婚だとか、女芸人がつけられるアヤを「おもしろい」という才能一つで乗り越えてきたんですよ上沼恵美子は。女帝だからではなく、漫才の才能があるからM-1の審査員席に座っていたんじゃないですか違いますか。

「女王とか言われるの、めっちゃ腹立ちません?」

 そういえばあの日の『さんまのまんま』でも、さんまに何度も「西の女王」と持ち上げられてましたっけ。でも上沼恵美子は「女王とか言われるの、めっちゃ腹立ちません?」と言い放った。おそらくそこには、自分は現役であるという自負、立場で笑わせてんじゃないという怒りがあったのだと、今あらためて思うのです。それなのにです。さんまに対しては「天下取って、40年も君臨して」とかしつこいくらいに言う、そのいけずさ。さんまは心底「関西におっといてくれ……」と思ったことでしょう。

 確かに上沼恵美子は西のテレビ界の権力者なのだと思います。そして周りが一斉に権力者に仕立て上げ神棚の中に封じ込めようとする気持ちもなんとなくわかります。『さんまのまんま』の終盤で「60歳の還暦の山登ったら見える景色が違いましたわ。今まで気を使って生きてきましたけど、正直なところは正直で行こう、ダメなものはダメで行こうと」としみじみ話してましたけど、権力に一切固執してない権力者って、めちゃめちゃタチ悪くて最高じゃないですか。そんな、上沼恵美子の本当の怖さを思い出させてくれたとろサーモン久保田とスーマラ武智の両氏には、感謝の意も込めまして『はらたいらのジタバタ男の更年期』(小学館文庫)をお勧めしたいと思います。

(西澤 千央)

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