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5年後「高学歴大量失業時代」がやってくる?


2016年、アルファ碁は世界王者に1敗を喫したが、これを機会にAIは一段と進化した(写真:AP/アフロ)

AI(人工知能)の進化がとてつもない速度で進んでいる。すでにアメリカでは「戦略図を描ける」コンサルタントでさえ花形職種ではなくなろうとしている。AIが一段とパワーアップした新たな社会に移行するまで残された時間は5年ほどしかないという。ではわれわれはどうすればいいのか。元富士通総研会長の伊東千秋氏との対談をお送りする。

AIはもはや気味が悪い存在?

中原:ほんの5年前には、「AIが将棋の名人に勝つことは難しい」「囲碁の名人には20年経っても勝てないだろう」といわれていました。ところが近年、AIが将棋の名人に勝ったばかりか、囲碁の名人まで打ち負かしてしまいました。AIの世界に何が起こっているのか、技術的な経緯も含めてお聞かせください。


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伊東:現在のAIは、2012年にビッグバンが起きて、わずか5年ほどで今日のブレークスルーを迎えています。ということは、これから5年先はどうなるか、想像以上の進化があって不思議ではありません。

2012年に何が起こったかというと、カナダのトロント大学のジェフリー・ヒントン教授が、AIの画像認識コンテストでこれまで考えられないようなハイスコアを出したのです。理由はディープラーニング(深層学習)でした。人間の脳は5〜6層のネットワーク層が重なっていて、1つの層で行った演算を次の層に送り、さらに次の層へと繰り返していくことで、高度な学習や思考ができるということが解明されていましたが、それをコンピュータ上で再現することで、人間に匹敵するレベルの高度な学習や思考を可能としたのです。

以降、多くの研究者たちがディープラーニングに取り組みます。そして、世間をあっと言わせたのは、英国のディープマインド社が開発した「アルファ碁」でした。これは、ディープラーニングを応用した初めての囲碁ソフトで、13層のネットワーク層を持っています。なぜ13層かと言えば、開発者たちには、それ以上深い層を追加すると暴走するのではないかという危惧があったからです。

「アルファ碁」は、韓国の囲碁チャンピオンであるイ・セドル氏と対戦し、4勝1敗で勝利しますが、その対戦で「アルファ碁」が敗れた1敗は、開発者たちが恐れていた暴走によるものでした。


伊東千秋(いとう ちあき)/1970年東京大学工学部卒、同年富士通株式会社に入社。1998年より3年間アメリカの富士通子会社のCEO。2004年専務取締役(プロダクト部門担当)、2006年代表取締役副社長(海外ビジネス担当)、2008年取締役副会長(次世代技術戦略・R&D担当)、2010年富士通総研代表取締役会長。現在、日立造船、ゼンショーHD、OBCの社外取締役(撮影:尾形文繁)

チャンピオンはたった3手のミスを見逃さず、「アルファ碁」に勝利してしまったのです。その後、開発者たちは暴走した原因を徹底的に分析し、改良を重ねて、現在では2000層ものネットワーク層を持つ人工知能を開発しています。5〜6層の人間と、2000層のコンピュータでは勝負になるはずがありません。

中原:人間の脳が5〜6層なのに対して最新のAIが2000層だとすると、ケタが違いすぎて凄いというよりも、何だか不気味な感じがします。

伊東:たしかに、研究者の目から見ても不気味です。ただ、そこは数字の問題だけではなくて、生物というのは神様が何億年もかけてつくり出したもので、もっと複雑な何かがあると思っています。たとえば、人間のDNAも実際に役に立っているものは2%しかないことがわかっています。それでは、残りの98%のDNAの存在は無意味かというと決してそんなことはないと思います。われわれが解明できていないだけで、きっと何か意味があるのだろうといわれています。したがって、コンピュータの性能をどんどん良くしていけば、人間を圧倒できるというわけではありません。

しかし、コンピュータには力技の限界がない。疲労を知らない。脇見をしない。やはり人間は分が悪いですよね。

ディープラーニングの仕組みはまだ解明されていない

中原:さらに不気味なのは、ディープラーニングの仕組みが解明されていないということです。人間は得体の知れないAIをコントロールすることができるのでしょうか。

伊東:たしかに、多くの研究者や識者が「AIは気味が悪い」といっています。これまでの学問や研究では、そのバックグラウンドに数式や公式などがあって、ここまでは可能、ここから先はまだ難しいということがわかっていました。

ところが、ディープラーニングの世界になると、どうしてそれが可能なのか、そのプロセスがまったくわかっていません。だから、みんな気味が悪いといっているのです。AIは人間と良い関係を築けるかもしれませんし、もしかすると、人間が制御できなくなる存在になるかもしれません。

中原:2012年にディープラーニングというビッグバンが起きて、ひょっとしたらもう1回あるいは2回、ビッグバンが起きる可能性があるかもしれませんね。そうすると、まったく想像のつかない世界が現れそうですが。


AIが「次のステージ」で共感力や企画力、発想力、創造力が必要とされる領域の大半までカバーする可能性が出てきたとなると、これは大変です(撮影:尾形文繁)

伊東:私が去年シリコンバレーに行って、UCバークレーやスタンフォードなどの先生たちの話を聞いていると、ビッグデータからディープラーニングするという時代から、次のステージに向かっているといいます。つまり、AIが身につけた知識を使って新たな知を生み出す世界まで行こうとしているらしいのです。AIは、人間と異なりほかのAIの知識を簡単にコピーできますからね。そうなると、やはり怖いですよね。

中原:AIがマネできないのは、共感力や企画力、発想力、創造力などといわれていますが、次のステージではAIがそれらの領域の大半までカバーする可能性があるわけですね。そうなれば、私たちの想定を超えて、AIが人間の仕事を奪う割合がいっそう高まってしまうのでしょうか。

人間が持っている感性はマネできない

伊東:先を見通すことは難しいですが、ひとついえるのは、人間が持っている感性はマネできないというか、ちょっとしたことですが生活を良くしようというイノベーションみたいなものが、最後の人間のよりどころになるのではないかと思っています。

イノベーションがどうして起こるのかというと、人間の思想のなかに「ゆらぎ」みたいなものがあると考えられているからです。つまり、効率性とか生産性などといった論理的な思考から生まれるものではないかもしれないのです。AIから見ると愚かしく合理的ではない、何か情緒的なものがイノベーションを生み出す源泉になっているかもしれない。それが救いのような気がします。

今のシリコンバレーでは、天才ではなく普通の人がイノベーションを起こすにはどうすれば良いか、ということに関心が集まっています。その最たる例は「デザイン・シンキング」ですが、彼らのやり方を見ていると、昔の日本のやり方をマネしているような気がしてなりません。「深く考えるな。考えるよりも手を動かせ」と教えているわけです。

実際、シリコンバレーの企業などは、こういった仕事のやり方をしています。何人かが集まって、ポストイットに自分の意見を書いてどんどん貼り付けていく。ほとんどのアイデアは採用されませんが、そういうムダになる行動をすることに意味があるというわけです。

中原:AIとは少し異なりますが、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)と呼ばれるソフトの普及が急速に進んでいます。パソコンを使ったデータ入力などの繰り返し作業を担うことができ、今では広範な事務作業に使われ始めています。人が犯しがちなミスを防ぐことができ、作業速度は10倍といった具合に格段に速いので、日本の企業では人員削減のために、RPAが積極的に使われていくことになると思います。AIと同じように、RPAの性能も上がり続けているのでしょうか。

なぜ欧米は「人間の8割の力しかないAI」を使うのか

伊東:性能自体が格段に上がっているわけではありません。ただ、自分たちの仕事に合わせたカスタマイズが容易にできるようになったということが大きいでしょう。今では普通のシステムエンジニアが普通にカスタマイズすることができます。

現在、一般的なPC業務のうち47%がRPAで代替できるといわれています。この先、本格的なAI社会が到来し、RPAと融合すると、定型PC業務のほとんどが消滅するというような恐ろしいことが起きるといわれているのです。

中原:もともとRPAはソフトメーカーであるアメリカのオートメーションエニウェアと英ユーアイパスが2000年代初頭に開発したもので、10年以上前から欧米の企業では利用され始めていました。それがなぜ昨年あたりから、日本の大企業を中心に急速に利用が広がり始めているのでしょうか。

伊東:それは、最近になって日本の企業に極端な人手不足感が出てきたからでしょう。日本はOECD加盟国の中で、GDP当たりのIT投資額が最も少ないIT後進国でした。どうしてそうなったかというと、日本の企業経営者は人をITに置き換えるのなら、ITに人手で行っているとき以上の成果を期待していたからです。ところが欧米では、そこまでの期待はせず、8割で良いと考えています。人間の8割の成果を出してくれるのなら、積極的にITに置き換えていこうという考え方なのです。

なぜ8割で良いかというと、欧米ではルーティンワークの担い手の離職率が高いからです。日本のように長くは勤めてくれませんから、欧米企業の多くの経営者が事業の継続性をとても大事に考えていて、継続させるためには積極的にITを導入して、人と置き換えていきます。ですから結果的に生産性も上がるのです。

これに対して日本の企業では、ITを入れても人を減らすことができません。日本の雇用慣行では簡単には辞めさせられないからです。どうせ人を辞めさせられないのなら、人手でこなして、ITを入れる必要はないという企業も多かったのです。

しかしここに来て、日本でも労働力人口が減り始めて、極端に人が足りなくなってきて、経営者は効率以上に事業継続を、より重要に考えるようになりました。そこで、ITやロボットを積極的に入れていこうという流れになっているのです。人手不足は危機と思われていましたが、実は人員を削減する千載一遇のチャンスになりうることがわかってきたわけです。これから、日本企業の生産性は大きく向上すると思います。

エリート職種の多くが消滅の危機に

中原:その典型例が、メガバンクの人員削減なのでしょう。日本の金融機関は欧米の金融機関に比べて人件費などのコストが高く、生産性の改善が課題となっているといわれて久しいですが、これからはRPAやAIの導入によって人件費を圧縮する一方で、生産性を引き上げようという流れは不可避のようですね。

伊東:そのとおりです。銀行のバックオフィスでは多くの行員が働いていますが、行員の仕事の多くは同じ作業を繰り返すものです。それであればRPAで十分に対応できるので、その結果、メガバンクでは万単位の人員整理につながっていくのです。多くの人たちが「メガバンクも大変だな」と他人事のように思っているかもしれませんが、実は、こうしたメガバンクの動きは、今後の日本企業にとって貴重な先行事例となっていくでしょう。

中原:AIがかかわるのが頭脳の領域であることを考えると、たとえ高度で専門的な知識が必要な職業であったとしても、将来がずっと保証されるということはありません。AIの進化によって専門職の人々の仕事環境は様変わりし、10年後には今の仕事の半分はなくなっているかもしれないからです。医師にしても弁護士にしても税理士にしても、これまで成功を収めてきた人々ほど、そういった危機感を強く持っていて、将来の対策をシミュレーションしているといいます。

伊東:そのとおりです。AI社会の到来によって、医者、弁護士、会計士などエリート職種とされてきた仕事の多くが消滅の危機にさらされるでしょう。

AIの凄さを示す事例には事欠きません。たとえば、20人の検事が6カ月もかけて見つけ出した不正の証拠を、AIはわずか20分で発見してしまったといいますし、優秀な弁護士が1日かけて見つけた契約書の不備を、AIはものの数秒で見つけ出してしまったといいます。

これからの仕事は「ホワイトカラー」と「ブルーカラー」という分類ではなく、「クリエーター」と「サーバー」という分類になるといわれています。クリエーターというのは何も芸術家とかではなくて、「プログラムコードを書く人」という意味で使われています。その一方で、サーバーというのはサーバント(=召使い)であって、「規則に基づいて、決められた仕事をこなす人」のことを指しています。

中原:今の日本の大学の入試制度や企業の採用方法では、そのような状況に対応するのが難しくなりますね。大学も企業も大きく変わっていかねばなりません。

未来の社会では、AIと闘ってはいけない

伊東:今の日本の大学進学率は5割台で、これはアメリカの3割と比べて非常に高い数字です。大学を卒業すれば、会社・良い仕事に就けて、高い収入も期待できる。そういう考え方から、みんな大学に行くのです。

ところが、この前提が大きく変わろうとしています。つまり、AIが普及することによって、最もダメージを受けるのは高学歴者たちになるのは明白で、これは大きなパラダイムシフトが起きることを意味しているのです。

そのような大きな変化が本格的に起こるまでに5年程度の時間があるとするならば、企業は社員の意識改革に急いで取り組む必要があります。個人の側からいえば、良い会社にいるから安心、という社会が変わろうとしているのです。個人は、継続的に自己研鑽し、スキルアップして「個」で闘っていく力を持っていかないと、結局は企業からも捨てられてしまう、そういう意識改革をしていかなければなりません。

アメリカではかつて、コンサルタントといえば花形職業で、これまでは、パワーポイントを使ってスマートなプレゼンができれば良かったのですが、今では「プログラムコードを書けなければ使いものにならない」とまでいわれています。

つまり、単にコンセプトを提示するだけではダメで、それをハードウエアやソフトウエアに落とし込むことができなくては商売にならないということです。日本でも最近、プログラミングを大学入試に入れるといっているのは、そういった背景があるからです。

中原:そう遠くない将来に到来するAI社会に対して、若い人たちに向けて何かアドバイスをいただければありがたいです。

伊東:私は若い人たちに「AIと闘うな」といっています。AIと闘って勝てることはないですから。将棋の藤井聡太7段のように、「AIを利用しなさい」とアドバイスしたいですね。

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