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消えた天才左腕、巨人・杉内俊哉が最後に求めるものとは?

 結局、やるのは選手だ。サッカー日本代表がコロンビアから歴史的勝利をもぎ取った一戦を見ていて再認識した。

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 監督交代のゴタゴタ、試合に臨むプロセスでの準備不足、強化方針のブレや意思決定の不透明さ、遅さ。こういったことはそれぞれに重大であり、検証や反省が必要なことがらだ。ただ、それはあくまでもグラウンド外のことであって、二次的、外部的要素と言ってもいいぐらいなのだと思う。スポーツにおける主役はあくまでプレーヤー。ピッチでボールを蹴り、投げ、打つ者たちだ。最高レベルの競技であれば、極論、フロントや協会や指揮官がすべて間違えた判断をしても、選手が現場で頑張れば勝つ可能性は残る。だからこそ、賞賛も非難も選手に集まる。プレーヤーが一番なのだ。

 プレーヤーたちはみな、それを本能的に理解している。だから、ほとんどの選手が現役にこだわる。本当はいつまででも現役でいたいのだ。引退したばかりのOBたちが時に現役選手に対して辛辣なのは「嫉妬」という面も大きいのだと思う。最高の時を知るファンの立場からすれば、衰えた姿を見て悲しい気持ちになることがないと言ったら嘘になるが、1年でも長くユニホームにしがみつく姿を責める気にはとてもならない。

『選手は満足してやめることは不可能。でも納得してやめることはできる』

 35歳までリングに立ち、3階級を制覇したボクシングの名王者長谷川穂積の言葉だ。

 どんなスポーツであれ、現役生活に大満足し、一片の悔いもなくユニホームを脱ぐことはほとんど無理なのだとすれば、あとはいかに自分と折り合いをつけ、納得してグラウンドを去るか。野球選手で言えば、30代半ばを過ぎた選手はこのフェーズに入ることが多い。

1軍のマウンドから姿を消して3年 天才左腕・杉内俊哉

 巨人で言えば杉内俊哉がその一人だろう。鹿児島実業では夏の甲子園でノーヒットノーランを達成。三菱重工長崎を経由して入団したホークスでは沢村賞にも輝いた。巨人にFA移籍した後も、1年目からノーヒットノーランを達成するなど3年連続2桁勝利を挙げて原巨人をV3に導いた。国際試合にも強く、日本代表でただ一人となる3大会連続のWBC出場を果たした。最多勝、最優秀防御率、最多奪三振……投手部門のあらゆるタイトルを獲得し、3度も日本一になった。日本球界ではある意味すべてをやりきったと言ってもいい。そんな男が1軍のマウンドから姿を消してもうすぐ3年になる。


2015年以来、1軍のマウンドから遠ざかっている杉内俊哉

 杉内は紛れもない天才だった。ずば抜けた体格も、圧倒的な球速もない。それでも、ストレート、スライダー、チェンジアップの三種類の球種だけで三振を取りまくる投球はまさに唯一無二と言ってよく、似ているピッチャーを想起することも難しい。事実、1930回2/3での2000奪三振達成はプロ野球史上最速の大記録である。

 若いころには降板後にベンチを殴って骨折したり、活躍が1年ごとであったり、勝ち星がシーズンの一時期に集中していたり(5月に14連勝を記録したこともある)とやや気まぐれな点はあったものの、「調子がいいときは手が付けられない」という点で言えば、ダルビッシュや松坂にも引けを取らなかった。(余談だが、ノーヒットノーランや完全試合を達成する選手にはこのタイプが多いように思う。日本シリーズで完全試合寸前の投球を見せ、無安打無得点試合を記録したこともある中日の山井大介などもこの『瞬間最大風速』が半端ない投手だと言える)。

夢の200勝には程遠いけれど… 復帰を目指す理由

 巨人に移籍した直後の杉内にじっくりと話を聞いたことがある。

『上半身が水になっているイメージを追い求めている』
『打者を抑えるのに球速はそれほど重要じゃない。キャッチボールと同じような力感で130キロが出せれば絶対に打たれない』
『投球前に左手を上げるのは指先にたまった血液を戻すため』
『正直、自分のボールがなぜ打ちにくいのかがわからない。打者の立場で自分のスライダーやチェンジアップを見てみたい』

 自身のピッチングを語る際にのぞく天才らしい繊細な感覚に驚かされつつも、最後に尋ねた。

 今後の野球人生で達成したい夢はなんですか?

『今通算103勝なので……巨人で200勝を挙げることですかね』

 まだ31歳になったばかり。バリバリに脂がのっていた杉内はこう答えてくれた。その後の3年間で33勝を挙げて順調に夢に近づいているように見えたが、2015年に股関節痛で戦列を離れると、勝ち星の数は「142」のまま足踏みを続けている。

 天才左腕も10月には38歳になる。今後もし復帰できたとしても、以前のような快刀乱麻のピッチングができるとは杉内も周囲も思っていないはずだ。夢の200勝だって現実的ではない。では、なぜ復帰を目指すのか。それはきっと他の多くの選手と同じように「納得」するためなのだと思う。3年間の雌伏の時を経てようやく復活を果たした松坂大輔、独立リーグに活路を求めた村田修一、ビハインドでもマウンドに上がり、まるで便利屋のような働きを見せる藤川球児。一度は頂点を極めた同年代の選手たちもまた、最高だった自分と、今の自分のギャップに折り合いをつけつつも「死に場所」を追い求めている。

 満足が叶わないなら、せめて納得を。瀬戸際に追い込まれた選手たちの最後の戦いに「勝ち」はおそらくない。だが、これもまた、「絶対に負けられない戦い」なのだ。

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(Kameyama)

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