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電気自動車はガソリン車を超えるか

 テスラの電気自動車(EV)の新型車「モデル3」が発売された。価格は「ベースグレード」でも3万5000ドルと高級スポーツカー並みだが、発売前から予約が50万台を超える人気だ。これをきっかけにEVが世界で話題になり、ガソリン車からの買い換えを真剣に検討する人が増えてきた。

 フランスのマクロン政権は、温暖化対策の「パリ協定」順守のために「2040年までに内燃機関を動力とする自動車の販売・生産を禁止する」という目標を発表した。イギリス政府も同様の方針を発表し、ヨーロッパでは2035年までにガソリン車・ディーゼル車はなくなるとの予測もある。電気自動車はガソリン車を駆逐するほど魅力的なのだろうか?

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ドライバーにとってEVは魅力的か

 答は、今のところノーである。テスラのモデル3は今までより航続距離が伸びたが、それでも最大約500km。これはカタログ性能で、リチウム電池の劣化は速いので、300kmぐらいとみたほうが安全だろう。これでは1泊2日の家族旅行が限界で、長距離トラックなどの業務用には無理だ。

 出先に「充電スタンド」があればいいが、充電には30分以上かかる。EVは自宅に充電設備をもつドライバーが買って、夜間電力で充電するものと考えたほうがよい。これは集合住宅では難しい。

 地方都市で一戸建ての住宅から短距離通勤する人の高級自家用車としては使えるかもしれないが、逆にいうと充電スタンドは採算に乗らない。今後も充電インフラが普及することは考えにくい。

 EVには発進加速がよいとか静かだという魅力もあるが、最大の魅力は燃費である。条件の設定で大きく違うが、たとえば日産の公式サイトでは、1000km走る燃費は(夜間電力で)ガソリン車の約20%ということになっている。

 しかしリチウム電池は高価なので、買ってから廃車にするまで5年間の「所有コスト」で考えると、平均約8万ドルで、内燃機関(平均約3万6000ドル)の2倍以上というのが米エネルギー省(DOE)の計算である。

 これを2022年までに内燃機関と同じ水準まで下げるのがDOEの(希望的観測を込めた)予想だが、その最大のポイントは電池の技術進歩だ。図のように世界の電池コストはここ10年で8割下がったが、そのスピードは鈍化している。

電池のコスト低下(点線は予想)、出所:DOE


 半導体の性能が指数関数的に上がる「ムーアの法則」は論理回路の発達によるものだが、電池には物理的な限界があるので、少なくともリチウム電池では半導体のような伸びは期待できない。携帯電話でもわかるように、通信性能は飛躍的に伸びるが、電池の寿命はあまり大きく伸びないのだ。

EVは「エコ」だが日本では「エコノミー」ではない

 ではEVは「エコ」だろうか。大気汚染や地球温暖化に関してはイエスである。電池に充電するのは電力会社の交流電源だが、これは大規模な発電所で集中的に発電するので、熱エネルギーを動力に変える効率が高い。これに対して自家用車の小さなエンジンでガソリンを燃やすと、熱効率は30%ぐらいにしかならない。

 したがって石油を使って発電した電力を充電してEVを走らせた場合と、同じ量の石油から精製したガソリンを燃やして自家用車を走らせる場合を比べると、環境に排出される大気汚染物質や二酸化炭素(CO2)の量は、EVがおおむね半分になる。

 しかしリチウム電池は採掘や製造の過程で多くの有害物質やCO2を排出するので、それを合計すると、EVのCO2排出量はガソリン車に比べて1割ぐらい(3〜5トン)少ない、というのが環境問題の専門家、ビョルン・ロンボルグの試算である。

 5トンというのは4000円/トンの炭素税をかけても2万円だから、気候変動対策としては、EVに補助金を出すことは効果的ではない。それよりCO2を排出するすべての商品に一律に炭素税をかけたほうがいい。

 要するにEVのコストは発電コストなのだ。DOEの試算はアメリカの石油価格と電気代を前提にしているが、その目標が実現したとしても、ガソリン車と同等になるには原油価格が1バレル=115ドルまで上がる必要がある、というのが経済学者のシミュレーションである。

 日本の電気代はアメリカの約2倍なので、今の1バレル=50ドル以下の原油価格ではEVのコストはガソリン車よりはるかに高い。原発を止めたままでは日本の電気代は2030年代には今の2倍(アメリカの4倍)になるので、EVは高価なままだ。電力需要が増えると電気代がさらに上がり、EVをつくる自動車メーカーも日本から出て行くだろう。

 原発依存率80%のフランスがEVに転換するのは「原子力で車を走らせる」に等しく、一定の合理性があるが、内燃機関を禁止するのはナンセンスである。EVに経済合理性があるなら、価格が下がれば切り替えは進む。

非効率的なのは内燃機関ではなく自家用車

 Economist誌は8月12日号で「内燃機関の死」という特集記事を掲載し、EVへの転換を予想した。そこでガソリン車を減らす決め手になっているのは、自家用車の削減である。

 アメリカでは労働者の85%が自家用車で通勤しており、このままEVに置き換えるのは効率が悪い。これをウーバーのような「共有サービス」に切り替えれば、自動車の需要は最大90%減るとEconomist誌は予想しているが、これはEVへの移行とは無関係である。自家用車を公共交通機関に切り替えればよい。

 自家用車のエネルギー効率は、あらゆる交通機関の中で最悪である。電車のエネルギー効率は自家用車の8倍、バスは5倍である。日本のような狭い国で、車をもつのは無駄である。都市部では通勤に使えないので、自家用車でないとできないことは週末の家族旅行ぐらいだが、これもレンタカーがあれば十分だ。

 こういうと「地方では自家用車がないと動けない」という人がいるが、地方でも車をもっていない「交通弱者」はタクシーに乗っている。私は運転免許をもっていないが、日本ではどこでもタクシーが拾えるので、不自由だと思ったことがない。

「中国は国を挙げてEVを開発している。バスに乗り遅れるな」という話がよくある。内燃機関の開発実績もインフラも乏しい中国が、国内向けにEVを開発するのは合理的だが、それが世界に売れるとは限らない。

 EVは今後も成長するだろうが、それが内燃機関に置き換わるほど劇的な転換が起こるとは考えにくい。社会のエネルギー効率を上げて気候変動を防ぐためには、誰もが自家用車を持つ「クルマ社会」を見直すべきだ。

筆者:池田 信夫

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