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スーツが売れない…地獄的不況の業界で、2着4万円オーダーメイドがバカ売れの店が!

アーク甲府店

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 4月になると、見慣れた日常の景色も新鮮に見える――と感じる人は多いのではなかろうか。ビジネス街では、真新しいスーツに身を包んだ新入社員が目につく時季でもある。

 スーツを市場規模で見てみると、この10年の紳士用スーツは2007年度の3099億円をピークに市場が縮小し、13年度は2183億円となった(資料出所:矢野経済研究所「アパレル産業白書」)。6年で1000億円近く、約3割も市場が縮んだのだ。その理由は後述する。

 縮小市場の一方で近年伸びているのが、生地を選んで採寸してつくるオーダーメイドのスーツだ。昔は富裕層向けのイメージが強かったが価格も下がり、一般ビジネスパーソンの手の届く価格となった。そこで今回は、地方都市の紳士服店を例に、市場縮小のなかでの活路の手法を分析してみたい。

●「ホワイトカラーの少ない地方都市」で顧客を増やす

「アーク甲府店」という店が山梨県甲府市にある。場所はJR甲府駅北口から徒歩数分で、従業員は2人の小さな店だ。店内にはスーツの生地が展示されており、「2着で4万1800円」(税別)の格安価格から高級ブランドまで生地を取り揃える。メンズ用オーダーメイドスーツの専門店だ。

「昔と違い、オーダーメイドスーツを着る世代は若年化しています。当店は今から6年前に開業したのですが、最近は年々若い方が多くなり20代のお客さんが増えました」(運営するミスターカンパニー代表取締役の坂本雅人氏)

 同店を取り巻く環境はスーツ市場として好条件とはいえない。3月1日現在、山梨県の人口は83万2961人、県庁所在地の甲府市は同19万2263人と、全国の県や県庁所在地でも下位に位置する。本社を構える大企業も多くない。

「そもそもホワイトカラーが少ない土地柄です。大企業や中小企業の工場が多いので、ほとんどの従業員は作業服姿で仕事をします。勤務先が工場でも、都会であればスーツで通勤電車に乗る人が多いですが、こちらでは自家用車で通う人が多く、スーツよりもカジュアルな格好で通勤しています」(同)

 そうした環境なので、待ちの姿勢では顧客獲得ができない。そこで同店は外商を行い、運営するミスターカンパニー代表取締役の坂本雅人氏が金融機関など県内各地の法人に出向いて商談を行う。注文を受けると仕立て職人に内容を伝え、裁断・仕立て・縫製の進行を管理する。法人客の業務特性に応じた仕上がりも大切だ。打ち合わせ時にどんな仕事でスーツを着て動くかを確認して、仕立て職人に細かく指示する。たとえば冠婚葬祭業向けのスーツは、次の部分に気を配る。

「葬儀のスタッフは黒いスーツ姿で作業するので、動きやすさと耐久性を重視しています。特に葬儀会場の準備や後片付けといった軽作業で体を動かすことが多く、摩耗しやすい上着の脇やパンツの股部分は、生地を補強するなどして仕上げています」(同)

 既製品のスーツではできない部分に、細かく対応することで信頼を高めている。

●のれん分けで独立し、VF甲府の公式スーツも手がける

 実は、「甲府店」と名前がついているが、ミスターカンパニーが運営する店は甲府市内の1店舗しかない。もともとアークを創業したのは坂本氏の師匠にあたる千須和八太郎氏だ。現在、静岡県と長野県に「アーク鷹匠店」など6店舗を構える千須和氏は山梨県身延町の出身で、東京の紳士服オーダー店に就職して紳士服業界に入った。

 紳士服一筋で40年以上の経歴を持つ千須和氏は、同業界で裁断、仕立て、縫製などの作業を学び、百貨店内のテナント店長、独立店の店長などを経て1990年代に起業。長年培った人脈や流通ルートを生かして、2着で3万9800円のオーダースーツを生み出した。

 坂本氏は山梨県北杜市の出身だ。大学卒業後、甲府市の山交百貨店に入社して店舗に配属された。この時期に紳士服オーダー店の店長だった千須和氏と出会った。その後、坂本氏は県内の精密機器メーカーや宝飾メーカーなどに転職した後、千須和氏が甲府市で創業したアークに入社し、10年ほど勤務した後に独立した。

 在職中に千須和氏から、仕立て職人との信頼関係の築き方などノウハウを学び、のれん分けのかたちで本拠地を静岡県に移した師匠の跡を継いだのだ。フルオーダーではなくイージーオーダーなので仮縫いは行わない――といった手法も受け継いだ。

 現在のアーク甲府店は、坂本氏と大森令子氏の2人で切り盛りする。坂本氏と大森氏は千須和氏が経営したアーク時代の同期入社で、現在は大森氏が店内接客を担当する。紳士服店だが婦人用も一部取り扱い、業績も年々拡大している。顧客数は約5000人だという。

 現在、同社は日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)1部のヴァンフォーレ甲府(VF甲府)の公式スーツも担当する。もともとVF甲府の経営幹部と千須和氏が旧知の仲だった関係から、坂本氏が受注した仕事だ。これによって同店の認知度も拡大した。

「選手も採寸に訪れてくれますし、毎年、一般向けに『ヴァンフォーレスーツ』という選手と同じモデルの商品を1着3万8000円で販売しています。若いサポーターは『スーツを買うなら選手と同じものを着たい』と来店してくださり、山梨県外のお客さんも増えました」(坂本氏)

●スーツ離れの時代に、どう訴求していくか

 そうはいっても、消費者意識の潮流が変わらない限り、今後も市場の冷え込みが予想される。紳士用スーツ市場が急激に落ち込んだのは、次の理由が考えられるからだ。

(1)「クールビズ」の浸透と職場環境の変化

 これから初夏になると、スーツを着ない「クールビズ」の季節となる。以前のように6月1日から9月30日までではなく、ゴールデンウィーク明けから取り入れる職場も増えた。また、IT業界の会社員など一年を通してスーツを着ないホワイトカラーも多い。

(2)少子高齢化でスーツ人口が減少

 労働人口が少なくなると、紳士服の需要も減る。特に2015年4月1日で、人数の多い団塊世代(1947年〜49年生まれで700万人超)の一番下の年代(1950年の早生まれまで)が全員65歳を迎えた。経営者・役員や一部の技能者以外は定年退職となったのだ。ホワイトカラーだった人も定年になるとスーツを着る機会が激減する。
 
(3)スーツ価格の下落

 昔は普通レベルのスーツも高かった。その価格を引き下げたのが「洋服の青山」(青山商事)などの量販店だ。同店の躍進に象徴される「価格破壊」は94年の「新語・流行語大賞(トップテン入賞)」に選ばれた。以後20年たち、普通のスーツ価格も下がった。

 いずれもスーツ業界にとっては逆風だが、オーダーメイドスーツに関しては新規需要も促せる。たとえば(1)では、スーツを着る機会が少ないからこそ「自分に合ったオーダーメイドスーツを」と働きかけることもできるのだ。

(2)では、退職世代も一切スーツを着ないわけではない。アーク甲府店は「親戚の結婚式があるのでスーツをつくりたい」という年配者も顧客としている。(3)の価格下落も、オーダーメイドスーツには追い風となった。

「山梨県は商圏が小さく、当社のスタッフは2人だけなので、現状では店舗拡大は考えていません。一人ひとりのお客さんと真摯に向き合った結果、顧客数が増えました。たとえばお兄さんがつくって気に入ったら弟さんが来店してくださるということも多いのです」(同)

 同店では一部だけ対応する女性用スーツも、今後の市場として注目している。働く女性が当たり前となり、有力取引先との商談など重要な場面を担う女性が増えているからだ。

 坂本氏のような起業家は、近年は少人数で会社を運営する人も多い。限られた人数では、まず「何をやらないか」が経営視点となる。その意味で、イージーオーダーに徹して手間のかかる仮縫いは行わず、店舗も広げない同店の事例は参考になりそうだ。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

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